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カフェ開業を目指す方、必見! 東京のカフェ文化の歴史と、これから求められるカフェ像

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昭和を彩った喫茶店文化を経て、平成を迎えた1989年、渋谷Bunkamuraに『ドゥ マゴ パリ』がオープンした。パリの芸術家や知識人に愛されたカフェが東京にオープンしたとあって話題を呼び、90年代前半のフレンチカフェブームを牽引した。

そして『スターバックス』が日本へ上陸し、シアトル系と呼ばれるコーヒーのブームが到来するのが90年代後半。今年で『スターバックス』上陸から20年が経つが、その人気は未だ衰えを知らない。

カフェは時代の流れに敏感に反応し、変化を遂げる業態でもある。では、具体的にどのように進化してきたのか? ここでは2000年以降のカフェ業態の歩みをふり返りつつ、今、求められるカフェ像について探っていきたい。

「空間に浸る楽しみ」を提供した2000年代前半のカフェ

新たなカフェ文化が東京に展開し始めるのは2000年代に入った頃。駒沢の『バワリー・キッチン』はその先駆けだ。1997年にオープンし、芸能人がお気に入りの店として挙げるなどメディアでも多数取り上げられた。

この時期のカフェは、都市型生活にフィットした深夜までの営業時間や、インテリア、アート、音楽などに統一感を持たせた空間作りが特徴。こだわりはしっかりとありつつも、肩肘をはらない居心地の良さは、家庭でも職場でもない、第三のくつろぎの場所“サードプレイス”としての役目を果たした。音楽も「カフェミュージック」がひとつのジャンルとして確立し、コンピレーションアルバムが販売されるなど、フレンチカフェ時代には果たし得なかった日本独自のカフェ文化が発展していった。

メニューは「カフェめし」と呼ばれるワンプレートものが多く、ジャンルを限定しない多国籍感が特徴として挙げられる。ドリンクメニューも豊富になり、アルコール類も気軽に楽しめるようになった。何か特定の看板メニューがあってそれを食べに行く……というよりも、カフェという空間に浸る時間を提供するというのが、この頃のカフェが果たした役割ではないだろうか。

「カルチャーと人を繋ぐ場所」へ変化した2000年代後半のカフェ

『バワリー・キッチン』の成功により、カフェの形態はより自由度を増し、小規模な個人経営のカフェはさまざまな方向に枝葉を伸ばすようになる。古民家をリノベーションした店舗や、デザイナーズインテリアのみで構成された店舗など、規模の小ささを生かした個性的な店舗が増えた。

また、“居心地の良い空間”としての役割を果たすため、飲食以外のカルチャーとも結びつくようになる。例えば、店主のセンスでセレクトされた本がインテリアとして並び、同時に手にとって読むことができたり、注目作家のアートを壁に飾ったり、店独自のフリーペーパーが話題を呼んだり、イベントフライヤーなどが店内の一角に置かれるようになったりと、この時期のカフェは、ファッションやカルチャーと人をつなぐ場所としても機能していた。

2010年代のカフェは「ライフスタイルショップ」としての役割も

2010年代に入ると、カフェとカルチャーの関係はさらに発展し、トークイベント、創作スペース、習い事など、より能動的なものと結びつく店舗形態も出てくる。2012年にオープンした下北沢の『B&B』は“これからの街の本屋”をテーマに、ドリンク片手に本を選んだり、開催されるトークイベントに参加することができる。

2013年にオープンした五反田『ゲンロンカフェ』も、イベントスペースとカフェを融合させた店舗だ。00年代のカフェにおけるカルチャーの存在は、空間を作るための補足的な役割であったが、10年代に入ると、飲食の目的を凌駕する、より独立したものとして存在感を増した。一方で、食と食にまつわるさまざまなものを総合的に扱うライフスタイルショップとしての役割を持つようにもなった。

メニューも“とにかく豊富”というような無国籍感は影を潜め、ひとつのジャンルを追求し、提案する、専門性に特化した形が増えてきた。カフェに欠かせないコーヒーも、サードウェーブとともに、良質な一杯の追求に余念がなく、アルコールも各店舗のオリジナリティを大切にしている。産地や製法など食にまつわる情報を“発信すること”もカフェが提供するサービスのひとつに加わっているように感じる。

かつて喫茶店が自由な言論の場として華やいでいた時代から、カフェはその時々のカルチャーと深く関わり合いながら発展してきた。雰囲気だけではない確かな味や、学びたい人たちのニーズに応える場所の提供など、多様化する現代人のニーズをいち早く捉え、かたちにすることが、これからのカフェに求められているのではないだろうか。

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イシイミヤ

ライター: イシイミヤ

フリーライター。ファッション誌やカルチャー系のウェブサイトでライフスタイルに関わる記事を執筆。現在はフードカルチャーに焦点を絞り、その最旬事情から老舗の妙味まで多岐にわたり執筆中。週3でアンテナショップに通い、全国の郷土菓子と未知の食材の収集を日課にしている。ビールとコーヒーのトレンドに詳しい。