飲食店の約7割が「103万円の壁」引き上げに賛成。「年収の壁・支援強化パッケージ」認知には課題も

1月20日

画像素材:PIXTA
国民民主党が、基礎控除などを103万円から178万円に引き上げるといった減税策を提示したことを契機に、いわゆる「年収の壁」問題が注目されている。昨年12月20日に決定・公表された税制改正大綱では、所得税の支払いが発生するボーダーラインの103万円が123万円に引き上げられた。

こうした制度や改正の動きをめぐっては、アルバイト・パート従業員など短時間労働者を雇用する飲食店にもさまざまな影響がある。そこで今回は、飲食店経営者や運営者に対しアンケートを実施。「年収の壁」問題に揺れる現場の声をお伝えする。

<本調査について>


■調査概要

調査対象:飲食店ドットコム会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:318
調査期間:2024年12月12日~2024年12月18日
調査方法:インターネット調査

■回答者について

本調査にご協力いただいた回答者のうち67.9%が1店舗のみを運営。また、回答者のうち東京にある飲食店の割合は49.7%(首都圏の飲食店の割合は66.9%)となっており、こうした背景が結果に影響していると推測される。

<調査結果について>


アルバイト・パートを雇用する飲食店の40.4%で「働き控え」発生

最初に、現在自店で雇用しているアルバイト・パートスタッフの人数について聞いた。最多は「1~3名」で30.2%。次いで「0名(アルバイト・パートスタッフの雇用なし)(25.2%)」、「4~6名(15.1%)」、「7~9名(10.4%)」と続き、10名以上の雇用がある店舗は19.1%だった。


次に、アンケート調査を実施した2024年12月時点で「年収の壁」の影響によるパート・アルバイトスタッフの「働き控え」が発生しているか尋ねた。その結果、最も多かったのは「まだ発生していない」で、59.7%。一方で「発生している」との回答も40.4%にのぼり、全体の28.6%が「10月までに発生している」と回答した。


年収の壁・支援強化パッケージ「具体的に知っている」飲食店は6%

こうした背景がある中で、2023年10月に政府が発表した施策「年収の壁・支援強化パッケージ」について、どの程度の認識があるかを尋ねた。結果は「ほとんど知らない」が42.5%を占め、最多に。次に「聞いたことはあるが、内容は知らない(29.2%)」、「ある程度の内容まで知っている(22.3%)」と続き、「具体的な内容まで知っている」との回答は6%に留まった。


さらに「年収の壁・支援強化パッケージ」による支援の利用状況を聞いたところ、60.1%が「(利用するか)分からない」と回答。次いで「支援申請する予定はない(31.4%)」、「支援申請を準備・検討している(6.6%)」と続き、「(既に)助成金などの支援を受けている」という店舗は0%だった。


その上で「支援申請する予定はない」と回答した店舗にその理由を聞いたところ、最も多かった回答は「申請対象外だから(49.0%)」でおよそ半数以上。次に「制度内容を理解できていないから(30.0%)」、「申請手続きが煩雑だから(16.0%)」、「制度の申請方法が分からないから(15.0%)」と続いた。


約7割の飲食店が「103万円の壁」引き上げに賛成。「物価や賃金の上昇に見合わない」

こうした中、飲食店では「年収の壁」による働き控えに対してどのような予防策・対策をしているか聞いたところ、61.0%が「特に対策はしていない」と回答した一方で、「働き控え分の人員補填をする(23.3%)」、「年末に集中しないように、前倒しでシフト調整する(18.9%)」といった回答もあり、店舗ごとに地道な工夫や努力を行っている様子も垣間見られた。


2024年12月20日、政府与党は令和7年税制改正大綱を決定し、「年収103万円の壁」について、123万円へ引き上げる方針を示した。本アンケートでは「103万円からの引き上げ」という部分のみで賛否を聞き(本アンケートは2024年12月12日~18日に実施)、「賛成」74.5%、「反対」5%との回答を得た。


あわせて上記の回答の理由について自由記述で尋ねたところ、以下のようなコメントが寄せられた。

<「賛成」と回答した理由>


103万円の基準は物価や賃金の上昇に見合っていないと感じるため
  • 時給が上がっているのに103万円が上がらない方がおかしい(愛知県/その他/1店舗)
  • 給与水準や物価が上がっているので、「壁」を動かすのは制度上当たり前だから(埼玉県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
  • 最低賃金も上がっているので、変えないとバランスが取れない(東京都/フランス料理/1店舗)

人手不足の解消、スムーズなシフト調整につながると感じるため
  • 少しでも入りたいアルバイトスタッフが働けるようになるから(大阪府/居酒屋・ダイニングバー/3~5店舗)
  • 人手がいるお店と働き稼ぎたい双方のニーズにあうから(福岡県/焼肉/1店舗)
  • シフト調整が楽になるから(神奈川県/イタリア料理/1店舗)

手取り金の増加から、経済全体の活性化が期待できるため
  • 経済を回すためには、より働きやすい環境を作らないといけないと思う(大阪府/カフェ/1店舗)
  • 経済活動が活発化したり、新たな人材が見つかると思うから(京都府/専門料理/1店舗)
  • 全国的な人手不足の解消に少しでも役立つならば実施した方が良いし、経済が回ることに期待します(東京都/カフェ/1店舗)

<「反対」と回答した理由>


税収減と増税への懸念
  • そのぶん国の税収減になるから他の形で税金など値上げすると思うから(京都府/焼肉/2店舗)
  • 政府の税金の埋め合わせの為、増税になる可能性がある為(東京都/ラーメン/1店舗)

企業が負担を強いられることに対する反対
  • 企業の負担が増えて体力がない企業が対応できない(大阪府/鉄板焼き・お好み焼/1店舗)
  • 会社の負担が増えるだけだから(長野県/和食/1店舗)

収入に応じた制度を検討するべき
  • 壁を引き上げても結局そこが壁になるので所得税や社会保険料は収入に応じて少しづつでも取ればいい(愛知県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
  • 引き上げに「反対」ではなく、103万円という無駄はなくした方がよいと思う。そもそも収入がある場合はその収入の種類に応じた負担をするべき(京都府/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)

最後に、「年収の壁」に対する自店の課題や意見について聞いた。その結果、以下のような声が寄せられた。

「103万円の壁」を含む年収制限を引き上げるべき
  • 103万の壁だけでなく、106万の壁、130万の壁など全てを見直さないと人手不足の解消には繋がらないと思います(兵庫県/専門料理/11~30店舗)
  • 今回の103万円の壁よりも、106万・130万円の壁(社保加入条件)の方が影響が大きいと考える。(中略)労働者全員を社保対象にするという方向性には賛成だが、その過程の時々で対応が必要になると考える(茨城県/ラーメン/2店舗)

社会保険加入で負担が増えることへの懸念
  • 年収の壁より、週20時間以上の厚生年金の強制加入に危機感を感じています。中小企業にとっては致命的です(神奈川県/イタリア料理/1店舗)
  • 近年の最低賃金の伸び率にプラスして保険年金の負担は到底できない(神奈川県/専門料理/2店舗)

短時間労働者を多く抱える飲食店にとっては、人手不足解消の一助になる面もあるが、社会保険加入による負担が増えるなど、新たな問題が出てくることも事実だ。「年収の壁」問題には複数の課題が複雑に絡み合っており、税制改正は今後も段階を経て長期的に進められていくと見られている。今後の動向に注目したい。

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