大手飲料メーカーのシステム障害、飲食店の5割に影響。年末商戦には「取引先分散」意識高まる

11月18日

画像素材:PIXTA
国内大手飲料メーカー、アサヒグループホールディングスで2025年9月に発生したランサムウェア(身代金要求型ウイルス)によるシステム障害は、受注・出荷業務に深刻な影響を及ぼした。飲食店の営業に不可欠な飲料の仕入れが不安定になる中、各店舗はどのような影響を受け、いかなる対応を迫られたのか。

今回、飲食店ドットコムでは、飲食店経営者・運営者300名を対象にアンケート調査を実施。その実態と年末の繁忙期に向けた見通しを探った。

<本調査について>


■調査概要

調査対象:飲食店ドットコム会員(飲食店経営者・運営者)
回答数:300
調査期間:2025年10月28日 ~ 2025年11月4日
調査方法:インターネット調査

■回答者について

本調査にご協力いただいた回答者のうち71.3%が1店舗のみを運営。また、回答者のうち東京にある飲食店の割合は50.7%(首都圏の飲食店の割合は67.7%)となっており、こうした背景が結果に影響していると推測される。

<調査結果について>


アサヒグループとの取り引き、56%で4大メーカー中最多に

最初に、主に取り引きしている飲料メーカーを上位3位まで尋ねたところ、「アサヒグループ」(56.0%)が最多となった。次いで「サントリーホールディングス」(48.7%)、「キリンホールディングス」(46.0%)、「サッポロホールディングス」(34.3%)と続き、4大メーカーの中での取引割合の高さがうかがえる。

また、今回の事件が発生する【前】の「アサヒグループ」製品について、自店で取り扱う飲料全体に占める割合を尋ねると、最多は「25%未満」(37.3%)、次いで「ほとんど取り扱いがない」(30.0%)と続いた。

一方で、「75%以上」(9.7%)、「50%〜75%未満」(8.0%)を合わせると17.7%となり、アサヒグループ製品への依存度が50%を超える飲食店も一定数存在することがわかった。

障害発生後、飲食店の半数超に仕入れ影響。他社製品への切り替えで対応

システム障害発生以降の、アサヒグループ製品の仕入れ状況について尋ねた。「ほとんど影響なく希望通り確保できている」は28.0%にとどまった。「一部不足があるが営業には大きな支障はない」(36.7%)、「大幅に不足しており営業に影響が出ている」(6.3%)、「ほぼ仕入れができていない」(8.3%)を合計すると51.3%となり、回答者の半数以上が何らかの仕入れ不足に直面している。
次に、「アサヒグループ製品を全く仕入れていない」と回答した45名を除く255名に対し、実施した代替・対応策を尋ねた。

「特に何もしていない/影響がなかった」が44.3%で最多であったものの、「他のビールメーカーの同等品に切り替えた」(16.9%)と「同等品との併用を始めた」(11.8%)を合わせると28.7%が他社ビール製品で対応。さらに「他のソフトドリンクや食品メーカーの製品に切り替えた」(14.9%)、「併用を始めた」(9.4%)といった回答も見られ、多くの店舗が他社製品への切り替えや併用で不足分をカバーしようと動いたことがわかる。

年末商戦への深刻な影響は回避か。94%が「影響ない」または「軽微」と回答

飲食店にとって最大の繁忙期である年末の忘年会シーズンへの影響について、見解を尋ねた。
「影響はないと思う」(39.0%)と「わずかに影響があると思うが大きな問題にはならない」(55.0%)を合わせると、実に94.0%の飲食店が、深刻な影響は出ずに乗り切れると予測していることがわかった。「売上を左右する深刻な影響が出ると思う」(3.3%)、「既に予約や集客の不安材料になっている」(2.0%)はいずれも少数派にとどまった。 この見通しを反映し、忘年会シーズンに向けた仕入れ計画についても、「特に変化はない」が67.0%と最多だった。ただし、「他メーカーの仕入れ比率を大幅に増やした」(12.0%)、「例年より早期に発注をかけた」(9.0%)、「在庫を前倒しで確保した」(9.3%)など、安定供給に向けて先手を打つ動きも見られた。

8割以上が「売上への影響なし」と予測。懸念は「主力品不在」より「コスト増」

今回の件による、自店の売上への影響予測についても尋ねた。「ほとんど影響なし」が82.3%と大半を占め、直接的な売上減への懸念は限定的であることがわかる。「わずかな売上減(1〜3%程度)」(12.0%)、「中程度の売上減(3〜10%程度)」(4.7%)、「大きな売上の減少(10%以上)」(1.0%)を合わせても、影響を見込む声は17.7%だった。
一方で、売上への影響要因について尋ねると、「代替品への切り替えによるコスト増」(29.3%)が最多となった。次いで「人気の主力商品(スーパードライなど)が提供できないことによる客離れ」(26.3%)と続く。

売上への直接的な影響は「なし」との回答が多かったが、代替品の仕入れによるコスト増や、仕入れ先対応にかかる「業務負荷増」(16.0%)など、売上減以外の形でじわじわと経営に影響が出ている(あるいは、これから出ると懸念している)様子がうかがえる。

約4割の飲食店が「仕入れ行動変わる」。「取引先の分散」進む見込み

今回の「予想外の仕入れ不能事態」を受け、今後の仕入れ行動が変わると思うかを尋ねた。

「変わらないと思う」が61.0%と過半数を占めたものの、「大きく変わると思う」(5.7%)と「少し変わると思う」(33.3%)を合わせると39.0%にのぼり、約4割の飲食店で意識の変化が起きていることがわかった。
「変わると思う」と回答した117名に、具体的にどのような行動やリスク管理が変わると思うか尋ねたところ、「取引先の分散(多社取引の強化)」が57.3%となった。次いで「在庫保有量の増加(多めの在庫確保)」(36.8%)が続いた。

今回の障害を教訓に、特定メーカーへの依存リスクを再認識し、仕入れ先の多角化や適正在庫の見直しといった、具体的なリスクヘッジに乗り出す飲食店が増えそうだ。

セキュリティ強化とアナログ対応の併用を望む声。メーカー間の協力にも期待

最後に、今回の件に関してアサヒグループや他の飲料メーカーに望む対応や意見を自由記述で尋ねた。

セキュリティ強化・リスク管理体制への要望
  • サイバー攻撃に対するセキュリティへの意識強化を望みます。(愛知県/和食/1店舗)
  • システム一元化の見直しを検討していただきたい。メール等の外部との接触システムとの切り離しなど。(愛知県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)

早期復旧と有事のアナログ対応への期待
  • 同様の事が起きた場合、ある程度アナログで対応できるようにするとか、見込み数量で問屋までは商品供給してしまうなど、流通が完全に止まらないような方策を考えておくのも重要ではないか?(東京都/バー/1店舗)
  • デジタルシステムだけに頼るのは良くないと思いました。やはりアナログでも対応できる様にしておくべき。(東京都/フランス料理/1店舗)

メーカーへの激励・業界全体への意見
  • どのメーカーさんもとても真摯に対応していただいており、非常に大変な状況のなか、感謝しかありません。(神奈川県/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)
  • こればっかりはしょうがないですが、他社への協力を仰げるようになるといいですね(静岡県/専門料理/3~5店舗)
  • ビール業界全体として生ビールの取り付け金具は、統一した方が良い(大阪府/居酒屋・ダイニングバー/1店舗)

今回のシステム障害は、飲食店にとって年末の繁忙期直前のタイミングで発生し、仕入れへの不安が広がった。売上への直接的な影響は少なくとも、「代替品のコスト増」や「業務負荷増」といった間接的な負担が懸念されている。

デジタル化が進む現代において、予期せぬシステム障害はどのメーカーでも起こり得るリスクであり、飲食店側もサプライチェーンの寸断に備えたリスクヘッジを平時から意識しておくべきだろう。


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最近のアンケート調査結果
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