安価すぎる物件は、理由を探れ (第59回)

【手頃な家賃は絶対条件】


 物件決定の最大のネックと言えば「家賃」。儲かっても儲からなくても、必ず毎月支払わなければならない上に、決して安い金額ではない。「気に入った物件があったが家賃が高かった」という経験は、物件探しをしたことがある人なら、必ず体験しているはずだ。
 今回は、家賃に執着した物件探しをしたばかりに、痛い思いをした例を紹介する。




【安さ追求で見つけた超格安物件】


 ラーメン店で独立したいと思っていたAさんは、人気のラーメン店に長年勤めてきた。手元に200万円の資金ができた段階で独立を決意。ラーメンの味に関しては、これまで何年もかけて培ってきたものに、オリジナル要素を加え、師匠も認める味が完成。ついに本格的な物件探しを開始した。
 Aさんは「とにかく安い物件」を要望。立地や物件の状態より、家賃を優先した。話を聞いた担当者は、地域の相場から比較的安価な物件をいくつか紹介したが、Aさんは「もっと安い物件はないか」と繰り返した。
 数ヵ月後、駅から10分の立地に、驚くほど格安な物件が出た。しかも、居抜きでありながら造作譲渡料10万円。家賃は、地域の相場の半額に近かった。Aさんは物件を見に行き、入ってすぐ「ここに決めます」と言った。
 場所は商店街から30メートルほど細い道を入った、まさに路地裏。カウンターのみだったが、席数は15席ありゆったりした造り。ただし、物件は昭和50年代に造られた木造物件で、とにかく古い。それまで何軒の店が営まれてきたのか分からないが、おそらく一度も手を入れていないであろう箇所がいくつもあった。
 不動産担当者は「メンテナンスにお金がかかり、決してお得ではない」と忠告したが、結局Aさんは譲らなかった。



【修理費がかさむ老朽化】

 Aさんは、内装にお金をかけずオープンしたいと思っていたが、建てつけが悪くなった裏口や形だけの換気扇、旧式の空調など、気になる点があちこちに見つかった。
 さらに契約後、冷凍庫の温度が十分に下がらないことが判明。通常-18度以下でなければならないが、-5度が精一杯。これでは品質が保てないため、修理を依頼すると「老朽化のため、その場しのぎの処置しかできない」と告げられた。
 入口の引き戸も、決して滑りがいいわけではなく、ここも工務店を呼んで手を加えた。他にも小さな修理を繰り返し、想定外の出費がかさんだ。
 オープン後もこの状態は続く。応急処置しかできなかった冷凍庫は壊れ、結局新しい物を購入。空調も燃費が極端に悪いことが分かり、最新のものにつけ替えた。しかし、天井に埋め込むタイプのものは大がかりな工事が必要だったため、置き型タイプにせざるを得なかった。
 開業時、金融公庫(現:日本政策金融公庫)に借りた資金はごくわずか。運転資金に取っておいた費用は、これらで消えてしまった。
 Aさんのラーメンは味に定評があり、オープン当初は行列もできた。が、次第に客足が遠のいてしまった。店の存在をアピールしようにも、30メートルも路地を入る状態では、できることは限られている。
 創意工夫を繰り返しながら約2年営業したが、排水管がつまり、汚水が厨房にあふれ出る事態に。その箇所は、店舗の排水システムではなく、大家が管理すべき箇所の老朽化であることが判明。ところが、排水に含まれる油分がつまりの原因だと大家が主張。話し合いは物別れとなり、結局Aさんは閉店を決意。元のラーメン店に戻ることとなった。
 家賃は安いに越したことはない。だが、その安さが悪条件を理由にしたものであれば、金額以上のリスクを負う可能性が出てくる。店舗は儲けを出さなければ継続できない。一歩踏み込んだ分析で、その妥当性を図りたい。

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