店舗物件探し
「天井の高さ、排水システム……。冷静に判断したい物件のあれこれ。」 (第13回)
理想をカタチにするために
長年育ててきた自分の店を持つ夢の実現。そこには大きな理想があり、それをカタチにできる喜びがある。ところが物件選びのポイントを外してしまうと、作りたい店作りができなくなってしまう。
よほど財力があり、まったくコストを気にしなくてよいのであれば別だが、多くは自分が描いた店舗をそのまま実現できる人は少なく、店作りをしていく中で、いくつかの妥協や変更を余儀なくされる。
今回は、物件を選ぶ際に注意したい、コスト面以外のポイントについて考えてみたい。
天井は高いところを選ぶ
まず店作りの際に、デザインに影響を与えることがいくつかある。たとえば天井の高さ。飲食店では、天井が高い方が理想的で、開放感のある空間の演出や凝った照明の活用など、自由度も高くなる。
ところが、天井の高さは構造上、変更することができない。
天井面に板材が張られていれば、それらを外して配管むき出しにし、多少天井は高くなるが、デザイン的にそれを許さないことも多い。
ビルの一階や商業施設など、最初から飲食店などの店舗が入ることを目的として設計されたものであればある程度の天井の高さがあるが、中には事務所や倉庫として使われていた物件を店舗に作り変えることもある。
また、古い物件は天井が低いことが多い。
「なぜか狭い印象がある」
「お洒落な空間演出ができない」
などの原因が天井の高さにあることも少なくないので、事前に注意すべきであろう。
逆に、吹き抜けなどで天井が著しく高い場合は、暖房効率が極端に悪くなり、空調設備に工夫が必要となる。
地形はオペレーションにも影響
当然ながら、物件の形状も変更はできない。
店舗では、限られた空間の中に、客席・キッチンのほか、トイレや収納スペースを配さなければならない。
全体が正方形や長方形であれば、どこをどんなスペースにするのか、自由度も高いが、L字型や凹凸がある物件など変形地の場合、おのずと制約ができてしまう。
たとえば、L字型の場合、多くは大きな空間と小さな空間に分けられる。
比率にもよるが、小さい空間はデットスペースになることも多く、倉庫やトイレなど、裏方的な役割を果たすスペースとして活用することが多い。
ところが、小さい方のスペースもある程度の面積がある場合や2つのスペースがほぼ同じ比率で分かれている場合、うまく活用しなければ、狭い印象を与えたり、全体を見渡すことが困難になり、オペレーションに影響がでてしまう。
また、物件への出入り口も変更ができないもの。出入り口が客席とキッチンなどのスペースを分けることも多く、また店舗の印象にも大きな影響を与えるため、物件をチェックする際に空間をどう使うのかイメージすることが重要となる。
対策がとりにくい悪臭
飲食店では、店舗内の悪臭は大きなイメージダウンにつながる。
特に地下店舗はにおいが滞留しがちで、発生した悪臭がいつまでも残ってしまう。大きなビルであれば問題はないが、小さいビルや古いビルは、そのビルの排水システムにも注意しなければならない。
なぜなら、ビルの構造的な問題で悪臭が発生しても、店舗では何の対策もできないからだ。
地下物件は、下水管よりも下にあるため、汚水をいったん排水層に貯め、ポンプでくみ上げるシステムを持っている。
多くはこの排水層は店舗の下にあり、発生する悪臭はそのまま店舗を直撃する。
地階に1〜2店舗しかない小さなビルでは、店内に排水層のマンホールがあることもあり、ここから悪臭がもれるので注意したい。
もちろん、悪臭が発生することがないような配慮がなされているが、店舗の排水に含まれる油分がこの排水ポンプのスムーズな作動を妨げることもある。
どんな事情であっても、悪臭はお客の気分を害し、悪評判につながるので、万全の対策をとっている物件を選びたい。
また、1階店舗では、店の前にこの排水をくみ上げる汚水マスがあり、悪臭が漏れてくることもあるので、同じように注意が必要だ。
排気口もトラブルの元
他にも、ダクトの排気口をどこにするのかを考える必要もある。
建物と建物の間が狭い都心部では、ダクトからもれるにおいや煙、音が問題になることも多い。
過去に近隣住民とのトラブルを経験している大家の場合、同じことを避けるために、排気口をビルの屋上に設けることを条件にしたり、騒音問題を避けるため、時間制限を設けることもある。
ダクトを作動するのは、営業時間だけでなく、仕込みから後片付けも含まれるため、営業時間に大きく影響する。
このように、物件を選ぶ際に、事前に注意するべきことはたくさんある。
一度決めたら、簡単には変更できない物件探しは、あせらず慎重に、あらゆる角度から考えて決定を下してもらいたい。
[コラム]
「くさい!」「うるさい!」で後からついた厳しい条件
新宿区の住宅地で営業する高級ハンバーガー店のケース。
事務所として使われていた物件に最新のマシンを導入し、メニューに工夫をすることで、人員をかけずにオペレーションができるようにし、朝から深夜まで少人数で営業できるようにした。
オープンから1ヵ月。店に現れた大家が突然、営業時間の短縮を申し出てきた。
ダクトの排気口をビルの屋上に出したのだが、となりのマンション住民から「くさくて洗濯が干せない」「モーター音がうるさくて眠れない」とクレームが来たというのだ。
事前に説明をし、最大の配慮をしたことを伝えたが、それまで飲食店に貸した経験がない大家は、予測不能の事態に「事前説明と配慮が不足していた」と言って一方的に厳しい条件を押し付けてきた。
話し合いの後、営業時間を短くし、深夜の営業をしないことで合意。
ただしこれも、契約更新までの条件付。
それ以降は、そのとき再び話し合いとなっている。
移転したくても、コスト的な問題があり実現は不可能。オーナーの悩みはますます深まっている。
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