「契約書は隅々まで確認。要望はハッキリと」 (第6回)

未経験者が多い物件契約


 独立する人の中には、調理やサービスの修業を長年積んできた人も多い。中には、数値管理など、経営に関わることを任されていた人もいるだろう。ところが、そんな人でも、「店舗物件を契約した経験は?」と聞かれると、「ない」と答える人がほとんどだ。物件選びと契約は、店舗の売上を左右する重要項目である一方、事前に経験するチャンスが少ない事柄だといえる。
 そのため「物件契約」をあまり重要視できず、思わぬ落とし穴にはまってしまい、「もっと早く気づけばよかった」と後悔する人も少なくない。
 今回は、物件契約の際に注意しなければならない点について考えてみたい。

特記事項や特例を認めてもらう


 店舗物件を借りるには、大家との間で賃貸契約を結ぶ。その契約に関するさまざまな条件が書かれたものが「契約書」だ。これは貸主である大家(時には管理会社の場合もある)が作成する。
 開業者がその契約書を目にするのは、気に入った物件が見つかり、契約を心に決めてから。そのため、「なんとしてもこの物件を借りたい」という気持ちが強くなり、契約内容の確認が甘くなる傾向にある。中には、契約書の内容をほとんど読まずに印鑑を押してしまう人もいる。これでは、後から「しまった……」となるのも仕方がない。
 通常、住居の賃貸契約の場合、契約書の内容について細かな要望や変更を伝えることはない。ところが、物件契約の際には、すべての項目を熟読し、要望を明確に伝えなければならない。自分にとって不都合なことがあれば、「この項目は削除してほしい」とか、「特別に認めてもらえないか」と交渉する。これを伝えられるのは、契約前しかないのだから、チェックは十分にしておきたい。
 実は大家が個人の場合、熱意を持って伝えれば、要望は受け入れられることも多い。大家も、店子の商売が順調にいくことを望んでいる。自分の裁量ひとつで、商売がしやすい条件になるのであれば、変更を認めようと思う人が多いのだ。契約内容を変更することはできなくても、特記事項を付け加えたり、特例として認めてくれることもある。
 また、大家と開業希望者の間に管理会社がいる場合は、時間がかかったり、交渉がうまくいかないケースもある。実際に契約実務を担当するのは管理会社なのだが、要望を聞き入れる権利はもっていない。そのため、大家の判断を仰ぐのだが、開業者の想いや人柄が伝わりにくく、杓子定規な判断しかされないことが多いのだ。このような場合は、その管理会社を味方につければ、一緒に説得してくれることもあるため、熱意を伝え交渉にあたってもらう。
 一方、契約書の変更がまったく不可能なケースもある。ショッピングセンターなどの商業施設などでは、契約書の内容がすべてであり、変更や特例は認められないことが多い。それどころか、契約書の販売商品の欄に「ラーメン」と書いたために、餃子やチャーハンなどサイドオーダーの販売すら認められないこともある。このような場合、事前に十分な確認をし、納得した上で契約に望まなければならない。

最重要項目は解約時の条件


 また、特に注意しなければならないのが、解約時の条件だ。これから開業しようとしている人が、解約を考えるのは、縁起が悪いような気もするが、実は最も重要な項目なのだ。
 物件の多くは、3年契約のものが多い。その更新のタイミングで解約するのであれば問題はないが、多くのケースは、その時期とは違う時に閉店という選択をすることとなる。このような場合、数ヵ月前に申し入れることを条件にしているものが多いが、中には6ヵ月と長い期間を設定しているケースもある。その期間は、営業していなくても賃料は払い続けなければならないため、経営不振でやむなく閉店をする経営者にとっては負担が大きい。また、スケルトン状態に戻さなければならないのか、造作譲渡が認められているのかも確認しておく必要がある。最近はローコストで開業するため、居抜き物件を探す開業希望者が増えている。「次の店子を早く見つけるためには、居抜きの方がいい」と言い切る不動産業者もいるため、最初からそれが認められるよう交渉しておくのもひとつの手だ。

軽視できない大家の人柄


 もちろん、契約書の内容以外にも大切なことがある。大家が個人の場合、人柄や誠実さも重要な確認項目だといえる。躯体部分の故障があったときの対応のスピードや、何かの要望を伝えたときに融通を利かせてくれるかどうかは、大家の判断にかかっている。あまりにも堅物だったり、不誠実な場合には、契約自体を再考するほうがよいのかもしれない。
 また、大家と開業者の間に立つ不動産業者との間にも十分な信頼関係を築いておく必要がある。事前に大家の情報を入手できるほか、後にトラブルが起きた際の仲裁役になってくれることも多い。
 契約書という実務的な部分とそれに関わる人たちとの信頼関係という人間的な部分の両面のバランスをとりながら、開業への第一歩となる物件契約を最善のものにしてもらいたい。それが後の成功へとつながるのだ。

■コラム
とても微妙な家主との関係

 あるオーナーのぼやきを聞いた。
 小さなビルの1階で人気の居酒屋を経営するそのオーナーは、時々訪れる老人に手を焼いている。月に1〜2回やってくるその人は、いつもお酒に酔った状態で数人の若い女性を連れ立ってくる。そして大きな声で「俺はこの店の大家さんだ」と言い放つ。それは、店内にお客が多い時ほど大きな声になり、「なっ、マスター。そうだよな」と返事をするまで言い続け、自慢話が始まる。
 「開業して売上が少ない頃、いろいろな面で融通を利かせ、一番の理解者となってくれたのは大家さん。彼がいなければ、とっくに店を手放していた」というオーナー。「足を向けて眠れない」というほど感謝し、店が大家の自慢になったことをうれしく思いつつ、お客そっちのけで対応をしなければならない現状に頭を悩ませている。老人とはいえ、大家は元気そのもの。「いつか、この騒ぎも店の名物になるかもね」という常連客の話に、苦笑いするオーナーの悩みはまだまだ続きそうだ。

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