「低リスクで開業できる小規模店舗M&A」 (第9回)

店舗を丸ごと買い取る


 時折、新聞の見出しを飾るM&Aの文字。もちろんこれは、大企業間の話だが、最近は規模の小さい企業や個人のM&Aも増加し、その中には個人経営の飲食店も含まれるようになっている。
もともと入れ替わりの激しい飲食店は、以前から「居抜き」での物件契約が一般的に行われており、その発展系としてM&Aが着目され、定着しつつあるのだ。

 M&Aとは、《merger and acquisition》の頭文字をとったもので、「企業の合併・買収。企業の多角化、競争力の強化、最新技術の獲得などを目的とする企業戦略とされる」(国語辞書・大辞泉)となっている。
飲食店においては、「すでに実績のある店舗を物件はもちろん、そこに働くスタッフやノウハウなどすべてを丸ごと買い取り、最初から安定した経営を手に入れる」ことを意味する。
通常の開業であれば、売上を予測し、そこから逆算して経費予測をしたり、スタッフを雇ったりするが、そもそもの基礎となった売上が予測と合致しないために、経営が傾くことも少なくない。
その点、売上が安定し経費内訳までも明確に分かっているM&Aは、リスクを最小にした開業だと言えるのだ。

 実際に飲食店のM&Aを利用している人は、すでに飲食店を経営し多店舗化したい人や新たに外食産業に参入したい企業の他、脱サラして第二の人生を歩みたい飲食店未経験者もいる。
物件の規模もさまざまで、10坪程度の夫婦経営の店舗もあれば、50坪を越す大型店舗も。
価格も数百万円のものから数千万円まであり、多くの企業や個人に可能性が広がっている。


業者選びは慎重に


 M&Aでの開業をするには、通常の物件探しに利用する不動産業者ではなく、M&Aを専門に行う(またはそういった部門を持っている)業者を利用する。

 業者は、店舗を売りたい経営者とその購入を考えている開業希望者を募る。
開業希望者を会員として登録させ、インターネットやFAXなどを利用して物件情報を流す。
気になる物件があれば、実際に店舗を訪問したり、現オーナーと面談をしたりして、M&Aを進める。

 双方の橋渡しの役割を担う業者は、事前に店舗の決算報告書をチェックし、オーナーへの聞き取りや訪店などにより経営状態を把握する。
経営状態が悪いのであれば閉店するしかない。
M&Aという選択をするからには、「黒字経営」であるのは当然の条件となる。

 また、開業希望者への事前対応も業者によりさまざまだ。
書面による申請のみで登録できる業者もあれば、登録の前に面談をし、資金の整理やビジョンを明確にした後に登録となるところもある。

 当然、M&A成立後の対応も違いがある。
引渡し後も、必要に応じて前オーナーにフォローすることを条件にしているところもあれば、自らがコンサルティングを行うところもある。

 最近では、価格をオークションで決定する個性派業者も登場する一方、M&Aと言いつつ、フタを開けてみれば人やノウハウの伝授を伴わない、いわゆる居抜き物件の斡旋業者もいるのが現状だ。
M&Aで最良の物件に出会い、早期に安定した経営を行うためには、誠意ある業者を選ぶのが最初で最大のコツだと言えるだろう。


前オーナーの意思を引き継ぐ


 リスクが少なく、経験がない人でも安心してスタートできるM&Aだが、一方で注意しなければならないこともある。

 通常の開業であれば、店舗コンセプトを決めたり、メニューを開発したりと、一からのスタートとなる。
それまで知らなかったことを経験し、一つひとつ判断をし、店舗がオープンする頃には経営者としての自覚が芽生えている。

 ところがM&Aはその準備期間が短い。
そのため、自分の適性や将来のビジョンがないまま安易に考え、中には「今まで利益が出続けているから、これからも安定して収益が上がる」と決めつけている人もいる。
「継続はチカラなり」と言われるように、現状を守るのは、変化する以上にチカラを必要とする。
自覚がない人が、「何とかなる」と気軽に始めるためのシステムではないことを理解しておきたい。

 また、ビジョンが明確でない人は、物件紹介を複数見るうちに目移りしてしまい、いつまでも決定できないまま迷路に入り込み、時間だけがいたずらに過ぎてしまったり、収益の多さだけが判断の基準となり、自分の適性を無視した選択をしてしまう危険もはらんでいる。
スタートの違いがあっても、その後、長期にわたって経営を担っていくことに変わりはない。
正しい判断をスピーディに行う経営手腕は、開業の形態に関係なく、なくてはならないものなのだ。

 M&Aは、元のオーナーが店を閉店させないためにとった選択だ。それまで何年もかけて培ってきた顧客との信頼関係を引き継ぎ、店を存続させていく責任が発生する。
買い取ったからには、できるかぎり長く続けること。
それが、双方にとって最良の結果なのだ。
リスクを最小にできるかわりに、前オーナーの歴史や意思までも引き継ぐ気概で取り組む必要があるだろう。


■コラム
個人オーナーの退職金

個人オーナーには退職金がない。
長年続けた店舗を閉店することになれば、スケルトンに戻すコストが必要になり、居抜きで譲る場合でも、少額の造作譲渡金が入ってくるにすぎない。
スタッフを雇っていれば、職を失う彼らに退職金を渡したり、将来を案じたりすることもあるだろう。
ところが、M&Aによる店舗の譲渡を行えば、それまで培った経験は、貴重なノウハウとして買い取られ、店舗はそのまま引き継げる。
さらに、スタッフの将来を考える必要もない。

経営者にとってM&Aは、余計な不安のない隠居で、譲渡金と言われる退職金も得られる、非常に優れたシステムなのだ。
この特性を利用して、早期の引退はもちろん、他業種への転換をするための資金作りとしてこのシステムを利用する人も増えている。
M&Aを利用すれば、手塩にかけて作った店を次のステップへの足がかりにできる。

将来的にあなたもM&Aで店舗を譲る側として活用する日がくるかもしれない。

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