「回避できない外的要因には、最悪のケースを想定しておく」 (第15回)

掘り出し物件は難しい…


物件の中には、掘り出し物件といわれるものが存在する。条件がよい割に契約にかかるコストや家賃が相場に比べて安い物件だ。しかし、それが本当に掘り出し物件なのかどうかは、簡単に判断できるものではない。物件を探している段階では好条件に見えたものも、実際にオープンしてみると、一概にそうとは言えないことや、意外な落とし穴が待っていることもある。
今回は、「もっとちゃんと考えておけばよかった…」と後悔した経験を持つ、元飲食店オーナーに話を聞いた。ぜひ参考にしていただきたい。


あえて選んだ期限付き悪条件


1990年代から首都圏では、渋滞を緩和することを目的とした幹線道路の拡幅や立体交差化、高速道路の拡充をめざし、大がかりな工事を実施している。これらの工事は、工期が長く、また計画より大幅に遅れるのが約束事のようになっている。
大手商社に20年近く勤めていた田代浩太さんは、「どうせ独立するなら体が十分に動くうちに」と脱サラをして、長年の夢だったレストランを開くことにした。場所は山手通り沿いで、自宅から10分ほどのところにあるビルの1階だった。駅からは多少時間がかかるものの、人通りは十分にあることは知っていた。
山手通りはすでに何年も工事をしていたが、「この地域は来年には工事が終わる」と誰もが信じていた。不動産業者も「工事が終わればかなりの来客が期待できる物件」と太鼓判を押した。しかも、大家は「工事が始まって家賃を3割も下げたが、工事が終わっても現状を維持する」と教えてくれた。もちろん自分でも工事説明の看板をチェックしたが、確かに完成は翌年になっており、店の前にゆったりとした歩道ができることも確認できた。
「工事が終われば最高の掘り出し物件になると信じて疑いませんでした。道路完成まで約1年。飲食業の経験がなかった自分には、準備期間があったほうがいいと思っていましたので、工期を長めの試運転と考えれば、むしろありがたいとさえ思い、その物件を契約することにしたのです」
早期退職制度を利用し、十分な退職金を得ることができたため、長年温めてきたイメージをそのまま形にしたような店を作り、大満足だった。


店の存在を消す事態


店はオープンしても認知が上がらず、売上は伸びなかった。時には1日店を開けていても2〜3人しか来店しない日もあったが、当初から覚悟していたことであり、焦りはなかった。
ところがある日を境に、店の前の道路が毎週のように変化するようになった。以前は歩道のガードレールが移動式であったものの、それなりに道路からも店が見えていたのだが、道路から店までが10メートル以上にもなり、その間に身長よりも高いシートで覆われた資材置き場が作られた。さらに、歩行者用の歩道は道路際にあり、店を利用する人だけが枝分かれした細い道を入ってこなければならない状況になった。その頃には、仕事帰りにちょっと寄って行くという人も増えていたのだが、店が視界に入らない状況ではそれも期待できない。業を煮やした田代さんは、工事業者に話を聞きに行った。そして聞かされたのは、最低2年の工期延長だった。
「役所がやる工事ですから、予定工期は当てにならないことくらい分かっていました。でもまさか、店の存在すら消されてしまうほどひどい状態になるとは思ってもみませんでした。夢の実現が目の前にあることで気分が高揚し、最悪の状況を予想できなくなっていた自分の甘さに愕然としました」
話し合いの結果、店への案内看板を道路と歩道に作ってもらうことになったが、やはり客足は伸びないままだった。
こうなるとなかなか浮上するのは難しい。無借金経営を目指し、運転資金をあまり残さなかったために、あっという間に経営体力が無くなった。それでもなんとか1年半の間がんばったが、結局陽の目を見ないまま閉店の日を迎えた。
「もう閉店まで1週間となったころ、新規のお客さんが来店し、店を気に入ってくれて、『すぐ近くに住んでいるのにこんな店があることを知らなかった。これからはたくさん利用します』と言われ、あまりの虚しさに涙が出ました。もっと違う場所だったら、時期が違ったら、結果が違ったのではないかと思うと、今も眠れません」
田代さんのケースは実に不幸な例だが、決して珍しいものではない。一見すると有利な条件を持つ物件に出会った時、夢見る感情が先に立ち、冷静さを失うことは誰にでも起こりえる。
しかし当初の計算が狂うのは、よくあること。とくにそれが外的要因による場合、自分では解決策が見つけられないだけに、無力のまま最悪の結果を迎える可能性も高い。
情報はできるだけ多く集め、さらに最悪のケースを想定し、それを乗り切る方策を事前に考えておくようにしたい。乗り切ることが困難であるなら、手を出さないほうがいい。
特に、それが公的機関が行うものであったり、大規模な計画である場合、スケジュール通りに進まないのは世の常だ。甘い計算はせず、石橋は十分に叩いて渡るようにしたい。


[コラム]

「お客が支えてくれる」飲食店の魅力


都内の商店街の外れにあった手作り弁当の店は、喫茶店の軒先を間借りする形でスタートした地域密着の店だった。顧客の支持を集め、やっと居抜きの物件を手に入れたが、ほどなく区画整理地区に指定され、建物ごと撤去させられることとなった。どうしてもその地域から離れたくなかったため、すぐ近くの区の管理地を借してくれるよう署名を集め、奇跡的に話が通った。
ところが、区画整理の工事が始まると、新たな店の前の道路まで掘り返さなければならず、連日夜間工事が行われた。まったく眠れない日々となり、さすがにそれが3ヵ月も続くと体力的な限界がきた。工事が終わる目安も分からず、区の不誠実な対応に不信感を募らせたオーナーは、隣の区に新たな場所を探すことを決め、署名をしてくれたお客に謝罪した。
ところが、その店を利用していたお客たちは、一緒に場所探しをし、宣伝活動も手伝ってくれた。
オーナーを襲った2度の不幸を救ってくれたのは、その店を愛したたくさんの顧客だったのだ。
たくさんの人の日常に溶け込むことができる飲食店には、他の業種にはない魅力がたくさんある。「だから飲食店はやめられない」。オーナーの言葉が熱く心に響いてくる。


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