店舗物件探し
開業後も長く付き合える不動産屋を探せ (第19回)
開業後も続く不動産屋との関係
不動産屋は物件を探すのになくてはならないパートナーだ。でも実は、単に物件探しだけでなく、契約が成立した後も長く付き合うことが多いのは意外に知られていない。今回は、店舗と不動産屋の関わりについて考えたい。これを知れば、不動産屋選びに役立つだろう。
ただし不動産屋の中には、自社の持ち物件のみを扱う所や、仲介のみを行い、大家と深い関係を築かない業者など、いろいろなタイプが存在する。ここでは一般的な不動産屋についての実体験に基づいた例だと理解してもらえれば幸いだ。
調整を一手に引き受ける
不動産屋の役割は、物件の所有者である大家から依頼を受け、そこを借りる企業や人を探すことにある。ここでまずポイントとなるのは、不動産屋は借主より大家との関係の方が長いということ。地域密着の不動産屋であれば、数年から数十年もの長い関係があることも珍しくない。物件を探す立場から見ると、不動産屋は強い味方であり、その裏側では、大家にとっても強い味方ということになる。つまり不動産屋は、大家と開業希望者を円滑に引き合わせてくれる『仲人』のような役割だと理解すればよいだろう。開業希望者の要望を聞き、物件を探し出し、その所有者である大家との仲を取り持ってくれているのだ。
そして多くの場合、開業希望者が望む条件のままの物件は見つからないことが多い。そこで、希望に近いものを探し出し、大家の提示する条件との折り合いをつけ、契約を成立させるのが不動産屋の役割だ。
店舗物件では、開業希望者が大家に会うのは、契約のときの1回のみということが多い。当然、その段階では、条件面の調整は済んでいるはずだ。つまり、それまでの交渉は、不動産屋が一手に引き受けているのだ。
さて、ここで考えたいのが、不動産屋の力量や人柄。誰にでも好かれる人であれば、大家もいい印象をもっている可能性が高い。逆に、信頼できないいい加減な人であれば、大家も不安で交渉には応じないだろう。また、説得力のある話し方をする人であれば、大家も思わず納得してしまう。
こう考えると、不動産屋を選ぶ際には、単に自分と気が合うかどうかではなく、人柄や仕事ぶりなど、ビジネスパートナーとして適しているかどうかを基準に選ぶ必要性が出てくる。
いつまでも続く仲介役
さて、気に入った物件が見つかり、条件の交渉もまとまれば、ついに契約となる。ここでも、不動産屋が主導権を握りながら、契約書が取り交わされるが、それが完了したら役割が終わるかというとそうではない。
特に大家が企業ではなく個人である場合、不動産屋が開業者との仲介役としての役割を継続して担うケースが多い。例えば、何らかの理由で家賃の支払いが遅れてしまうと、連絡が来るのは不動産屋からというケースが多い。また、ビル内の他の店舗とのトラブルが生じたときに、オーナーに代わって仲裁をすることもある。
大家にしてみれば、そうやって不動産屋にその借主を選んだ責任を持たせているのだ。そうして、大家と不動産屋は信頼関係を継続させている。
つまり大家だけでなく、不動産屋に快い印象をもってもらっていなければ、後々、何かがあったときに最大の味方がいないことになる。店舗はどんなに準備を万端に進めても、思い通りにはいかないことも多い。開業してから匂いや騒音でクレームがきて、契約内容を見直さなければならないこともある。そうなったとき、不動産屋が味方かどうかは、大きな影響を及ぼす。物件探しの段階で、無理難題を強引に通し、不動産屋との関係がギクシャクしてはいけないのだ。要望を伝えたら、大家との間で力を尽くす不動産屋に敬意を払うことも忘れてはならない。
開業にはあまりにたくさんのことがあり、大切なことを見逃しがちになってしまう。ときには、開業すること自体が目標になってしまい、それがあくまでもスタート地点で、その後が本番であることすら忘れてしまうことも多い。飲食店の多くは、3年以内に閉店という望まない結果を生んでいる。そんな現実をきちんと認識し、冷静な目で物事を見て判断することが成功への最大の秘訣だ。物件探しは、単に気に入った物件を見つけるだけにとどまらない。自分が生計を立てるための場所を見つけ出すこと。そしてそこから大きく羽ばたくためのスタート地点を見つけ出すことを意味する。そしてそれに協力してくれる不動産屋は、まさにビジネスパートナーだと言える。その場だけのつながりにとどまらず、長く友好関係を続けられる、そんな不動産屋を探したいものだ。
不動産屋が救ったカフェのピンチ
ある飲食店オーナーの経験談だ。彼は30歳代半ばにして、カフェのオーナーとなった。ソウルミュージックが流れる大人向けの店をつくったが、客足が伸びず苦戦していた。再開発で、1年後には近くにオフィスビルやホテルが複数オープンする。それを見越してのオープンだったが、あまりに売上げが少なく、半年で家賃が払えなくなってしまった。それでも数ヵ月後には近隣の昼間人口が大幅に増え、売上げが回復することも確実。今さえ乗り越えられればと、必死で努力をした。
ところがついに、不動産屋からの電話が鳴り、家賃の遅れを指摘された。『これ以上遅れるようなら、契約解除』とオーナーが言い出したというのだ。ダメ元で必死に今後の見通しを説明した。事情を理解した不動産屋は、なんとか延命できる方法を探り、少しでも長く店を開け、売上げの回復を待つことを提案。気性の激しい大家のご機嫌をうかがいながら、謝罪をするのに適した日を探るため、不動産屋はこまめに大家に電話をして様子をうかがった。そして滞納した家賃は8ヵ月分。それでも契約解除を免れたのは、不動産屋の協力があったからこそだ。
もちろん彼はすべての家賃を払い終え、今でも店を続けている。現在では大家と円満な関係を築き、この話は過去の笑い話となっている。
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