解約時の条件こそ、最も重要視するべき項目 (第21回)

【閉店時の状況を想像する】

 前回も、契約内容の確認の重要性について説明した。今回は、その中でも特に軽視しがちだが、実はもっとも重要な事柄について説明したい。
 誰もが物件を契約するときは、開業を考えているときか、売上げが上々で、さらなる成長を目指して、移転をする時だ。つまり、想像するのは自分の成功した姿。店は毎日お客であふれ、忙しく働きながらも、充実した日々を過ごしている様子だろう。
 ところが、現実には、飲食店の多くが3年以内に姿を消すといわれている。さらに、半数近くが1年未満に閉店するともいわれている。
 そんな望まない結果になってしまった時、どんな状況になっているかといえば、売上げは低迷し、手元に残していた運転資金も底をつき、ギリギリまでがんばって、それでもどうしようもなくなってしまった、というような具合だ。そしてそれ以上は、店を続けることができず、苦渋の決断……ということになる。自分の城ともいうべき店舗をもったのだから、どんなに経営が苦しくても、ありったけの資金を使って、少しでも売上げが回復するように、最後の最後まで努力をするのは当然のことだ。
 ところが、そんな状況で閉店する頃には、手元に資金は残っていない。日々の努力を続けながら、虚しく迎えた結果にショックを受けつつ、大家に辛い決断を伝える。この時、最初に結んだ契約を理解していないと、さらに大きなショックを受けることになってしまう。
『最初から閉店のことを考えるのは縁起が悪い』と思う人も多いだろうが、実はとても重要なこと。これこそ最重要項目なので、真摯に受け止めてもらいたい。

【さらに負債を増やさないために】

 多くの住宅物件は、2年契約のものが多いが、事業用物件は3年契約のものが大半だ。
 もし更新のタイミングで解約するのであれば問題はないが、多くのケースは、その時期とは違う時に閉店、解約という選択をすることとなる。そして、このような場合には、数ヵ月前に申し入れることを条件にしている。3ヵ月前というものが多いが、中には6ヵ月と長い期間を設定しているケースもある。当然ながら、その期間は営業していなくても賃料は払い続けなければならない。経営不振でやむなく閉店をする経営者にとっては、これほど負担が大きいものはない。売上げという日々の収入がなくなったにも関わらず、家賃の支払だけが残ってしまうのだ。どんなに売上げが低かったにしろ、売上分の金額を他の仕事で得るのが難しいのは言うまでもない。閉店したために、さらに負債を抱えることにもなりかねないので注意したい。
 また、スケルトン状態に戻さなければならないのか、造作譲渡が認められているのかも確認しておく必要がある。
 スケルトンに戻す場合、そのコストは莫大だ。保証金が戻ってくるとはいえ、それではまなかいきれないことも多い。什器や食器は、中古として下取ってくれる業者もあるが、金額は期待できない。ましてや、機器類を中古で購入していた場合は、その望みさえ低くなり、お金を払ってスクラップにしなければならないこともある。
 最近はローコストでの開業を希望する人が多く、居抜き物件を探す開業希望者が増えている。「次の店子を早く見つけるためには、居抜きの方がいい」と言い切る不動産屋もいるため、最初からそれが認められるよう交渉しておくのも一つの手だ。
 とはいえ、これから契約をしようと考えている大家に、「閉店の時のことなんですが・・・」とは言いにくい。これに関しては、不動産屋を味方につけ、うまく話をつけてもらうのが最善の策だろう。


【スムーズな再起のために】

 何かを始める時、『うまくいかなかった場合』を想定しておくことはとても重要だ。やむなく閉店した上、さらに借金を抱えることになっては、再起はできない。何年もかけて準備をし、やっとたどり着いた開業でも、わずか数年で夢を潰える人もいる。『失敗は成功の母』というが、この一度の開業の失敗を活かして再度店をもつためにも、失敗の代償となる負債は最小に抑えておきたい。
 多くの開業者は、一度の失敗が尾を引き、再び店をもつことができない。ずっと借金に追われる人もいれば、返済しているうちに年齢を重ねてしまい、情熱を失ってしまう人もいる。そんな結果は誰も望んでいないはずだ。例え遠回りをすることになっても、夢はいつまでも持ち続け、いつか形にしたい。そのためにも、最初の段階で解約時の条件の確認をすることは、とても重要なことだと言える。


コラム

【知らなかった違約金の重さ】

今となっては、順調な経営をしている移動販売業者の失敗話を紹介しよう。
彼は移動販売で開業した頃から、そのおいしさや珍しさから、多くの雑誌やテレビの取材を受け、順調な滑り出しをしていた。そしてある駅前商業施設のフードコートへの出店話が持ち上がった。店の造作や什器類の購入費用はすべて施設側負担。保証金も格安で、家賃は売上げに対する歩合制。消耗品や備品の購入費用だけで出店ができると、その話に飛びついた。そして店舗がオープンすると、お客が殺到し、毎日信じられないほどの売上げを上げた。
ところが、店舗の売上げが上がるのと時を同じくして、移動販売車の売上げが大きく下がり、経営自体が困難になってしまった。「これはまずい」と走り回ったが、多忙を極め、経営者自身がダウンしてしまった。
いろいろ考え、本業の移動販売に専念したいと閉店を申し出たが、契約書を見ると「開業後2年以内に閉店するときは、造作などにかかった費用の他、違約金として500万円を支払う」となっていた。到底個人で支払うことができない金額に、泣きながら謝り倒すしかなかった。施設担当者が理解を示し、適当なところで折り合いをつけてくれたが、「あの人がいなかったら自殺していたかも」と、今でも恐ろしく感じるそうだ。彼はそれ以来、契約書を隅々まで読み、たくさんの質問をして、納得してからしか契約をしなくなっている。


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