店舗物件探し
発想の転換で探した“並べる階段”のある物件 (第28回)
【わずかしかなかった開業資金】
夢見た自分の店をもち、成功に導くためには、たくさんの努力を重ねなくてはならない。その最初の大仕事になるのが物件探し。決められた予算の中で、最高の条件の物件を探し出すのは簡単なことではない。前に前に進んで、行き止まったら回り道をしてみる。そんな発想の転換も時には必要になる。以前、商魂たくましい大阪で、少ない予算で物件探しに成功した飲食店経営者の話を聞いて、感服したことがある。
そのオーナーは若いころから飲食店に勤め、そこの経営者に認められ、二十歳そこそこにして1軒の店を任された。その地域ではちょっとした有名店になったり、「よくやってくれた」と言葉で感謝をされるものの、給料が上がるわけでもなく、どうにも納得できない。それなら自分でと独立することを思い立った。
経営者に交渉し、少しでもいいから退職金がほしいと頼んだが、散々交渉して手渡されたのは月給2ヵ月分そこそこの金額。その後を考えると、もめるのはよくないと判断し、その少ない金額での開業を画策した。
最初は路面店か、大きいビル内のテナントを希望したが、予算が合わず断念。場所を優先すると、地下や2階の物件にするしかなかった。
そこで少ない予算で借りるため、古くても不潔に見えなければいい、目立つ場所になくても、通りから少しでも見えればいいと多くの条件を緩めた。かわって最優先にしたのが、「並べる階段がある物件」だった。お客が並んで待ちやすく、その並んでいる様子が外から見える物件を探したのだ。
【「飲食店は難しい」と言われたが】
ほどなく駅前商店街の外れの古いビルに、外階段のある物件が眠っているとの情報を得た。ビルの壁に沿って造られた長い階段は、近くの交差点からよく見え、ビルの屋根が大きく張り出しているので、雨の日でもぬれることはない。以前は、ビルのオーナーが道楽でカフェをやっていたが、「階段が長くて店に入るのが大変」とお客に言われ、売上げが伸びないまま放置した物件だった。1年ほど使っていない内装は多少の手入れが必要だったが、もともと金持ちが趣味で作った店。厨房機器は上等なものがそろっている上、あまり売れなかったからこそ、程度もよかった。さらに、内装やテーブルなどの家具類の傷みはなく、まるで新品のようだったという。若い開業希望者にビルオーナーは、「ここで飲食店はムリじゃないか」と渋られたが、「だからこそやってみたい」と熱く語ったそうだ。その結果、「若い人の熱さに負けた」と、当初提示した家賃よりさらに安い価格に変え、保障金の相場が高い大阪にあって驚くほど安い金額に設定してくれた。
彼は契約した日から泊まり込んで内装をテコ入れし、わずか1週間でオープンさせ、1ヵ月後にはランチタイムに行列を作った。一度人が並べば、「あそこは行列ができるほど人気の店だ」とうわさが広まる。そうなれば、見える行列は何よりの宣伝効果を発揮する。そしてあっという間に、人気の店を作ってしまった。
厳しい状況になったとき、いつまでも理想ばかりを追っていても先には進まない。状況を打開するために、違う角度から物事を見つめ直したり、逆転の発想をすることで、それまで見えなかったヒントが見えてくるかもしれない。
彼は2年後に、念願だった駅前の路面店へ移転した。もちろん、広い物件にコストをかけ、理想の店を作った。最初から少ない予算でも立地にばかりこだわっていたら、小さな安っぽい店になったことだろう。彼はスタートの段階で多少の回り道をしたが、長い人生を考えれば、よりよい物件に早くたどり着いたのではないだろうか。
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