甘い考えは通用しない契約重視のフードコート出店 (第31回)

【突然舞い込んできた出店話】

 今回は、フードコートへの出店と契約の重要性について、失敗した例を参考にしながら考えていきたい。
 ある男性は、軽自動車を利用した移動販売をしていた。販売する場所に苦労しながらも、行列のできる店を作り、採算も取れるようになった。ある時、アミューズメントパークのフードコートを管理する会社の目にとまり「出店してみないか」との誘いを受けた。
 その場所は、都内に住む人なら誰でも知っている有名な場所。週末ともなれば、たくさんの人でにぎわい、最大の繁忙期である夏休みは、生産が追いつかないほどの売れ行きになると聞き、迷わず出店を決めた。
 店舗スペースは小さかったが、一人でやるには十分なスペースだった。それまでは、パン類やスイーツ、ドリンクなど出店場所によって、メニューを組み合わせて販売していたが、作業性を優先し、最も特徴的だった揚げパンのみを販売することにした。
 時期は6月。最も集客が期待できる夏場を前に、準備を着々と進め、初めての実店舗がオープンした。



【思わぬ苦戦に思いついた策】

 ところが、その夏は梅雨明けが遅く、ぐずついた天気の日が多かった。前日に天気予報を見て、明らかに売れる可能性がないのに、契約の都合で店を長時間開けなければならなかった。
 数日間、暇な時間をつぶした彼は、ある案を思いついた。アイテム数を増やし、客を引きつけ、さらに客単価を上げようとしたのだ。
 夜の間に買い出しをし、寝ずに仕込みをして乗り込んだ。ドリンクも販売しようと、移動販売車から機材をもって行った。大きな画用紙に、筆文字で新商品の名前と価格を書き、店頭に張り出した。店内の配置も整え、大きな声で叫びこみをしていると、管理事務所の担当者がファイルを片手にすごい勢いで歩いてきた。
「すぐに新商品の販売を止めなさい」
 驚いた男性がその理由を聞くと、手元のファイルをパラパラとめくり、あるページを指差した。そこには、開業の際に交わした契約書があり『販売品リスト』が書かれていた。その下には「販売商品については所定の日までに申告をし、承認を受けたもののみとする」と小さな文字で書かれていた。
 確かに彼は、契約にあたり作る手間が少なく、回転の良い揚げパンに絞り込んだ。しかしそれは、繁忙期を見据えての策であり、こんなにも売上げが少ないことを想定してはいなかった。数日であればまだしも、梅雨明けまで1ヵ月以上もあるかと思われる中、採算も取れないのに、ただ我慢するしかない日々があるとは、思ってもいなかったのだ。
 しかも、契約書は形だけのものと勝手に決めつけ、細かいことは実際にスタートしてから調整すればいいと思っていた。
 周りの店を見渡せば、かき氷をメインにしている店が肉まんを販売していたり、アイスを売る店がドーナツを販売していたりと意外なものを販売している。聞けばどの店も、商品販売の申請をする時点でいろいろなケースを想定し、損失を最小限にする手法を考えていたのだ。



【後悔先に立たず】

 最初から契約書を隅々まで読み、周りの店の人に挨拶がてらに注意点を聞いていれば、こんな想いをすることはなかったのに、少しの手間を惜しんだためにとんだ損をすることになってしまった。
 その夏、梅雨が明けて来客数が増えたのは8月になってから。それまでの約2ヵ月間、彼は後悔しながら厚い雲に覆われた空を眺めるだけの日を送った。幸い、賃料は歩合だったため赤字にはならなかったが、食材のロスは相当な金額になり、利益はほとんど出なかったそうだ。
 世の中、そう簡単にお金儲けはできない。期待だけに心を奪われ、大切なことを見失えば、それは大きな痛手となって返ってくる。日常生活では、あまり重要視されない契約書だが、ビジネスの上では最も重要なアイテムとなるのだ。




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