知っているつもりが落とし穴! 思い込みは禁物!!! (第34回)

【地元での開業を夢見て】

私たちを取り巻く環境は日々変わっている。
その変化を敏感に感じとることが大切なのは、誰もが分かっているのだが、現実にはなかなか難しい。

伊藤洋介さんは昨年の2月、渋谷区内の商店街に居酒屋をオープンさせた。
その商店街は、駅から住宅地に向けて150軒程の店舗が並ぶ中規模商店街。
シャッター通りと呼ばれる商店街が多い中で、長年に渡って空き物件がほとんどないという好立地だった。

幼い頃からそこで育った伊藤さんにとって、そこはまさにホームグラウンドというにふさわしい場所。
地域活動が盛んで、昔から住んでいる人が変わらない、人情味溢れるその街が大好きだった。
就職しても、住みなれた街を離れたくないという思いと、自分の店を持つための資金を貯めるため、実家に住み続け、夢の実現に向けて足場を固めていった。


【思い描いた客層が来ない現実】

伊藤さんは40歳を迎え、ついに居酒屋を始めることを決心した。

物件は商店街の会長のつてで、あっという間に見つかり「地元の人がやる店」と歓迎された。
席数25席程の和風居酒屋の居抜き物件を、かなり安く借りることができた上、造作譲渡はタダ同然だったという。

物件契約から半月。伊藤さんが夢見た店は、並びきらないほどの花と一緒に開業の日を迎えた。

最初は、昔からの仲間が家族と押し寄せ大繁盛だったが、それが一段落すると、売上げは低い水準で推移するようになった。週末は友人達で満席になったが、平日は苦戦の日々。
ターゲットにしていた、子供のいない夫婦や子育てがひと段落し、時間に余裕のできた自分と同じ世代の人たちは、思ったほど来店しなかった。

「地域性については、十分過ぎるほど分かっているつもりでした。何しろ40年も住んでいる場所。自分の目に狂いはないと信じていました」
けれど現実はそんなに甘くはなかった。

料理の値段が高いのではと、安価なメニューを増やすと、近くに住む学生が店に溢れた。
しかし客単価は驚くほど安い上に長居をするため、売上げアップにはつながらなかった。


【苦境で気づいた環境の変化】

そんな時に、リーマンショックに端を発する不景気が襲ってきた。
出費を抑えたい人々は外食費を真っ先に削り、ますます客足は遠のいた。

「ギリギリの状態まで追い詰められ、いろいろなことを考える中で、初めて地域社会が変化していることに気付きました。私が知っていたのは20年も前の商店街。今とは全く違う姿をしていました」

確かに、その地域に住んでいる人の顔ぶれは変わっていない。しかしそれは言い方を変えれば、皆が20年分歳をとったということ。
当時40代だった伊藤さんの親世代を店のターゲットに想定したが、彼らも今では60代となり、食事量も減り嗜好もかなり変わっている。
さらに、伊藤さんの同世代の多くは実家を離れていた。

「自分が中学生だった頃、1学年で10もあったクラスが今は2クラス。子供が減ったということは、単純にそこに住む若い家族が減ったということでした」

以前は八百屋や肉屋、魚屋が大半を占め、飲食店といえば、家族経営の中華屋や定食屋などが温かく迎えてくれた。

それが今では、店舗数は変わらないものの、ほとんどがチェーンの飲食店となり、ドラッグストアやコンビニが溢れていた。
改めて見直してみると、昔からある店は2割程。商店街は大きく変貌していたのだった。

伊藤さんは、景気動向を見極めながら看板を下ろすかどうか考えているという。

商売を始めるには、よく知っている場所の方が有利だと言われるが、それはあくまで現状を知っている場合のこと。
どんなに昔のことを知っていても、これからの商売には関係ない。
むしろ、それが思い込みとなり、眼鏡を曇らせることになりかねないのだ。


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