必要な部分だけしか借りないという発想 (第39回)

【突然の独立決意で資金がない】

物件契約には、まとまったコストが必要だ。
最近は、商店街復興の手段として自治体が一定額を補助したり、最初の数ヵ月分の家賃を免除する制度が注目されているが、まだまだ少ないのが現状だ。
今回は、大胆なアイデアと交渉術で”コスト安“を実現した例を紹介したい。根っからの大阪人が行った、驚きの方法だ。

浜田和也さんは、8年間、有名ホテルでパンを焼いていた。レストランで使用するパンや1つ500円もする調理パンなどを作っていた。
使用する材料も機材も一流のものを使い、常に緊張感の中でパンを焼き続けていた。

そんなある日、小学年の女の子の一言に衝撃を受けた。
「いつものパンの方がおいしそうだね。それに安いしね」。
彼はパン職人の仕事に誇りを持っていたが「自分が作りたいのは、誰もが気軽に毎日でも食べられるパンなのではないだろうか」と考えるようになった。

そして、彼は独立を決めた。

ところが彼は、独立資金をほとんど持っていない。貯金は150万円を少し超すくらい。
親に頼る気はなく、借金もなるべくしたくないと、できるだけローコストに抑えた出店を目指すことにした。




【必要な坪数だけという発想】ある日、不動産屋と話していて「この地域だと1坪1万円を切るのが一般的ですが、駅前だと2万円くらいしますよ」との言葉にピンときた。
「家賃が坪単価で設定されているなら、必要な坪数だけ借りればコストはかからない」と。
それを不動産屋に話すと「理屈ですが、そんな貸し方をしてくれる所はありませんよ」と笑われたが、浜田さんは本気だった。

自宅近くの商店街は、年々店舗数が減り、メインストリートはかろうじて店があるものの、脇道に入ると、店がどんどんなくなっていた。
店舗物件は、ほとんど放置されていたため、その中の空店舗からめぼしい物件を2つに絞り、大家を探して交渉開始。
「空店舗を借りたいが、大きなお金を用意することができないので3坪分だけ貸してほしい」
そんな無謀な依頼を受けた1人の家主は「馬鹿にしているのか」と言い、話さえ聞いてもらえなかったという。

もう1人の大家も「世の中そんなに甘くない。もっと資金を貯めてから独立を考えなさい」と後ろ向きな言葉を返したが、話を聞いてくれそうな気配を感じ、粘り強く交渉を始めた。

自分がホテルでパンを焼き、腕には自信があること。たくさんの人に来てもらえる身近なパン屋をつくりたいこと。
そして何より、今は1円も生み出していない空物件から、多少なりとも家賃が発生することを何度も話した。
「将来的には物件全体を借りて、恩返しをしたい」と熱く語り、3ヵ月の時間をかけて、家主を口説き落とした。



【後から借り足して店舗を拡張】

物件はもともと総菜屋を兼ねた鶏肉屋で、手前に販売スペース、奥に製造スペースという造り。
一段下がっている販売スペースが約3坪だったので、そこだけを借りることにした。
販売用の棚造りや壁のペンキ塗りなど、できることはすべて自分でやり、徹底して低コストで仕上げた。

中古の什器を譲り受け、なんとか予算内で開業することができた。
オープン後、店の味は評判となり、結局1年も経たないうちに、すべてのスペースを借りることになった。
浜田さんは「最初からすべてのスペースを借りなければならなかったら、怖くて独立していなかったかもしれない」と言う。

経営が苦しくなると、いろいろなコストをセーブすることになるが、家賃を減らすことはできない。
わずか数万円の違いでも、年間にすれば大きな金額になることを理解しておくことが必要だ。
コストを使わない分、知恵と根性で乗り切る。経営者には、そんな発想が必要なのかもしれない。




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