店舗物件探し
最初の一歩は、明確なイメージ作り (第46回)
【知識なくして成功はなし】
ある調査によれば、ほとんどの業種で「いつか独立したい」と思っている人が半数を占めるらしい。中でも多いのが「飲食店を始めたい」という人で、飲食業に関わっている人はもちろん、まったく違う業種の人も夢見ていることが意外と多い。一般的に飲食店は、独立の敷居が低い業種だと思われているが、実際には長く飲食店で働いてきた人でも失敗するし、まして何の知識もないまま開業したとしたら、あっという間に大赤字になり、望まぬ結果になってしまうだろう。
今回は、不動産業者が実際に遭遇した困った開業希望者の例を挙げながら、「物件探しをする前にやるべきこと」について考えていきたい。
【素人だからプロに任せる?】
Aさんは、不動産業者の窓口担当者として勤務している。店舗や事務所を中心に仲介業を行っており、飲食店開業希望者も多く訪れる。ある日、料理人暦20年のベテラン職人が、独立する店を探したいと言ってきた。自己資金は1000万円。Aさんは他の条件を聞いたが、「物件については素人だから、プロのあんたに任せる」としか言わない。居酒屋をやりたいことは分かったが、一人でやるのか、人を使ってやるのか。地元密着の立地でやるのか、繁華街でやるのか。そもそも、どんな店をやりたいのかなどが、全く伝わってこない。
仕事熱心なAさんは、プライベートでその人が勤める店に行き、どんな店で働いているのかを目で見て確かめ、資金シミュレーションを立て、それに基づいて物件を紹介したが「何か違うんだよな」というばかり。
そんなある日「ここでいいか」という返事が返ってきた。ところがそこは、決して条件の良い物件ではなかった。Aさんは不安を感じたが、彼は「とにかく安ければ何とかなるはずだ」と言った。結局彼はその物件を契約したが、1年経たないうちに店をたたんでしまった。
確かに物件探しの経験がある人は、ほんの一握りしかいない。しかし、物件探しは、その後の成功を左右する重要な要素なのだ。ここで「素人だから」と逃げてしまっては、成功は絶対にないだろう。
【業者とイメージを共有する】
では、物件探しで失敗しないために、まず何をすべきなのだろうか。物件を紹介する側のAさんによれば「イメージを共有すること」が最重要だという。「どんな地域の、どんな場所に、どんな店を持ちたいかをできるだけ具体的に伝え、イメージを共有できれば、極端に的外れな物件を紹介することもなくなり、効率的に物件を探せる」そうだ。
そして欠かせないのが数字のイメージ。コストを気にしなくていいのなら、好条件の物件はいくらでもある。しかし、実際はできるだけ低いコストで、最高の条件の物件を探さなければならない。「賃料がいくらくらいの物件」「保証金はこのくらいまで抑えたい」と、数字のイメージを伝えることが重要となる。
「でも実際に、どれくらいの資金が必要なのかなんて分からないよ」という人もいるだろう。しかしAさんによれば、その発想自体が独立する資格のない証拠。
「最近は、雑誌や書籍、WEBなどでたくさんの情報を得ることができるようになり、少し調べれば、自分が集められる額の資金でできる店はどんなものか、イメージをある程度膨らませることができる。もちろん、実際に物件探しを始めてみて、イメージと違う部分は出てくるが、最初から『分からないからイメージできない』という発想はあまりに貧相で、経営者としての自覚に欠ける」という。
確かに、飲食店を始めれば、様々な数字が追いかけてくる。感覚だけでなく、実際にはじき出される数字で、経営的判断を下さなければならない機会も多くなるだろう。物件探しは、経営者として冷静な判断を下す、最初のステップだと言えるかもしれない。
そして、最後に実に怖い話を……。
「最初のイメージが甘かった人で、成功した人は一人もいない」。これが現実なのだそうだ。
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