希望は天井を高くすること。 でもそれは、トラブルの元? (第51回)

【天井板を外して高さを確保】


 物件は、実際に工事を開始したり営業をスタートしてみて、初めて気付くことがたくさんある。多くの場合、それは「予想外」の出来事で驚くのだが、実は事前のチェックを怠らなければ、先に気付けた可能性もある。今回は、そんなチェックの甘さが重なった例を紹介したい。
 6年前、Fさんは若い頃からの夢であったスポーツバーを開業しようと物件を探し始めた。自宅から通えることを条件にしたこともあり難航したが、半年程したとき西新宿の外れのビルの地下物件が出てきた。
 それまで会社の事務所として使われ続けてきた物件は、一見飲食店には向かない造りに見えたが、駅から徒歩1分という立地や賃料を考えると、それまでのどの物件よりも魅力的だった。ビルの1階には牛丼チェーンが入っていて、集客面も問題ないと判断した。
 ただ気になったことが一つ。古いオフィスビルのため、天井が低い。スポーツバーの一番の売りである100インチのスクリーンを設置するには、それなりの高さが必要になる。「どうにかならないか」と契約の前に建築士に相談に行き、アドバイスを受けた。
 建築士が言うには「天井の板を外せば配管はむき出しになるが、天井は確実に高くなる。スクリーンをキレイに映すために店内を暗くすれば、見た目の悪さも気にならない」とのこと。Fさんはすぐにその物件を契約した。


【なぞの出っ張りの正体は?】


 契約後、内装工事を開始。事前に天井板を外すことが可能なことは、建築士が確認済みだった。次々と板を外していくと確かに天井は高くなり、十分とは言えないが不満はない程度の高さを確保できた。
 しかし、スクリーン設置部分の天井板を外して驚く。幅60?程の箱状の出っ張りがあったのだ。建築士は急いでビルの図面を再度確認したが、そんなものの存在は記載されておらず、どうやら後付けで作られたものらしかった。
 建築士はそれが何か分からなかったが、連絡を受けたFさんは、ひと目でその正体が分かった。それは1階の牛丼店のグリストラップで、店舗工事の際に設置したもの。
 建築士が確認したビルの図面はビル建築当初のもので、1階もスケルトン状態の図面。後から付けたグリストラップが書かれているはずはなかった。
 建築士は、他の壁面にスクリーンを映す案を考えたが、出入口の場所や梁の場所の関連もあり変更は不可能。結局スクリーンのサイズを80インチに小さくして取り付けることとなった。



【今さら避けられない?音?問題】

 店の一番の特長になるはずだった部分の変更は大きな波乱の予感を与えた。「出鼻をくじかれて不吉」と言ったFさんの予感は当たってしまったのだ。
 1階の牛丼店は、夜中の清掃を計画的に行っている。グリストラップの清掃は週に2回。曜日は決まっていないようだが、朝方の3〜4時の間に行われる。Fさんは、なぜそれを知ったのか……。
 それは、その清掃の音。どんな道具を使っているのかは分からないが、その時間になると驚くほど大きな音がする。時間は5分ほどだが、その音の大きさは尋常ではない上、何の前触れもなく突然始まる。その度、お客は飛び上がって驚く。
 午前3〜4時といえば、ヨーロッパのサッカーがライブで行われる時間帯。ゲームカードによっては、スポーツバーは大繁盛する。「今日は清掃の日ではありませんように!」と祈りながらの営業は神経をすり減らすそうだ。
 この音は、天井板を外していなければ、そんなに気にならなかったはずのもの。牛丼店も気を遣ってできるだけ遅い時間に行ってくれている。
 「せめて事前の確認を自分でやっていれば、納得できたはず」と後悔しているが、今となってはどうしようもない。Fさんの苦悩は、まだまだ続きそうだ。




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