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ラーメン屋から焼きあごの総合企業へ。新たなフェーズに入った「焼きあご塩らー麺 たかはし」髙橋夕佳氏が語る「企業と社長の役割」
2022年09月08日
2015年2月、新宿歌舞伎町の一角に居を構え、瞬く間に繁盛店となった「焼きあご塩らー麺 たかはし」。当時、ほとんど知られていなかった「焼きあご」の存在を世に示し、ブームに火をつけたと言っても過言ではない人気ラーメンブランドだ。運営するヒカリッチアソシエイツ(東京都中央区、代表取締役:髙橋夕佳氏)は、直営の「たかはし」ブランドを9店舗展開しているほか、2021年4月にはミシュランビブグルマンに何度も選ばれた「らぁ麺やまぐち」を運営するRaイノベーション(東京都新宿区)の全株式を取得し、話題を呼んだ。今回は、髙橋氏にインタビュー。創業から今日に至るまでの歩み、今後の展望、経営論について伺った。
キャリアのブランクを一気に飛び越えるべく、自らの愛がこもった焼きあごラーメンで独立を決意
―もともとはまったく異業種にいた髙橋社長ですが、ラーメン店を開業することになった経緯はどのようなものだったのでしょうか?
髙橋:大学卒業までは地元の新潟県で過ごしていたのですが、東京の不動産会社に就職を決めたため、上京しました。でも、半年くらい経った後、授かり婚を機に、新潟に戻って子育てに専念することにしたんです。3人目の子が1歳になる頃、それまで心の隅で抱いていた「自分も社会で活躍したい!」という気持ちが再燃するようになったんですけど、社会で活躍している同世代の女性に比べると、私は社会経験が少ない。たぶん、今からどこかに勤めるというのは難しい。「それならば、起業しかないだろう」と、決意したことが始まりですね。
―そこでラーメンを選んだのは、どのような理由があったのでしょうか?
髙橋:ブランクを埋めて、飛びぬけたコンテンツを発信するためには自分の好きなものを東京に持っていくべきだと考えたんです。自分の好きなもの。それが、子どもの頃から慣れ親しんでいた地元・新潟の焼きあごラーメンでした。「この味を東京で再現できたら、多くの人を喜ばせることができる!」と確信していたんで(笑)。そうして2011年に会社を設立して、翌年2012年に茗荷谷で夫婦二人のお店を開業しました。 ところが、始めてみたはいいものの、なかなか簡単にはいきません。主人はラーメン店での経験はあるけれど、焼きあごは未経験。一方の私はラーメンを作ったこともなければ、売ったこともない完全な素人。店は毎日、閑古鳥が鳴いていました。
―それは苦しいですね。
髙橋:そうですね。何が苦しいって、お客さまが来ないことではなく、お客さまを感動させることができていないということです。地元で食べて感激した、焼きあごラーメンの味を再現できていない。それが悔しくて仕方がない。 でも、落ち込んでいても仕方ありません。来る日も来る日も、営業後に出汁の取り方や配合など、ラーメンを構成する要素を変化させて味わいを検証。その味を、次の日にお客さまにお出しして反応を見る。そうして、しらみつぶしに色々な味を検証して、自分の思い出の味に近づいた頃、お客さまもどっと増えて、店が賑わうようになりました。開業から1年半経ったころでしたね。その時の味が、現在の「たかはし」の味に限りなく近いベースとなっています。
さらなる飛躍を求めて新宿へ移転。多店舗展開を広げるも、新たな課題に直面する
―まさに不屈の精神でお客さまの心をつかんだというわけですね! その後、2015年に新宿へ店を移転しますね。
髙橋:茗荷谷の店舗は行列ができるようになって、商品力に、確かな手ごたえを感じるようになりました。そして、もっと多くの人にこの味を伝えるため、さらに大きな街で出店しようと考えました。今思えば、とにかくネームバリューが欲しかったので、「人の多いところで出す!」と、あまり細かなマーケティングはしていませんでしたね(笑)。とはいえ、結果的に10ヶ月ほどで月商1000万超えを達成し、翌年から毎年1~3店舗出店する原資も生まれました。
―その後も上野や銀座など、激戦区に出店し、そのどれもが人気店となるような、破竹の勢いだったように感じます。
髙橋:敢えて激戦区に出店していたのは、ベースとなる売上が大きくなり、それに比例して利益も大きくとれることが期待できたからです。逆を返せば、売上が小さい店舗でやっていると、収支などの管理がシビアになってしまう。茗荷谷でそれを経験したので、余計に大きな利益をとりにいくことが正攻法だと考えるようになっていました。思い返せば、当時は「新宿本店」で得た人気を頼みに勢いで突き進んでいましたような気がしますね。でも、そのやり方って「全ての店舗の調子がいい」ことが前提なんです。店舗が増えてくれば、どうしても売上の芳しくない店舗も出てくる。会社単位で考えると、他の店舗の利益を圧迫する要因になってくる。そういう状況になるにつれて、「今までは個人店の延長だった」「組織力や管理能力が低かった」ということを思い知らされていくんです。「家業から企業へ」という言葉もありますが、私たちも、改めて会社の在り方を考えなければならないと考えるようになったんです。
企業の在り方を再度模索。ブランディングと社員教育による組織力の強化に注力する
―具体的に、どのような変化をしていくことに決めたのでしょうか?
髙橋:いちばん大きいのは「企業理念の可視化」ですね。社長である私自身が、やりたいこと、向かっている方向、価値観を言語化して、社員が明確に理解できるものにすることがとても重要なことだと思いました。どんな施策や課題解決も、この企業理念に沿っていなければ、組織は向かうべき方向に向かっていかず、成長もしません。ましてや、社員を守ることもできない。2017年(3店舗の頃)に、教育カリキュラムを作り、研修制度の運用を始めました。更に、コロナ禍で理念やビジョンを大胆に変更し、教育の再構築をしました。
―理念やビジョンは、どのように変更をしたのですか?
髙橋: 理念は、「心を豊かにする特別な日常を共創する」という普遍的な価値を求め、 ビジョンは「循環型バリューチェーンを創造し、焼きあごで食の未来を変える」という、まさに私たちのビジネスモデルが目指す理想を掲げています。 さきほど大胆な変更とお話したのは、これらを実現するために必要な人財のマインドを、自立型に振り切った点にあります。
―なぜ自立を重要視したのか、お話を伺えますか?
髙橋:その背景に、人財への期待があります。 飲食店を多店舗展開すると、ある程度、オペレーションを標準化したり、育成カリキュラムで人財を早期戦力化させたりすることが必要になってきます。これは即効性の高いチェーンストア理論で、及第点の営業レベルにいち早く到達するのに相応しい方法です。しかし、決められたことを決められた通りに行うことが、正しいという風土が醸成されるように思います。更には、自分で問題解決する機会を会社が率先して奪うことにもなりかねません。マニュアルにないイレギュラーなことがたびたび起こるのが、現場です。
―主体性を発揮することができるスタッフが育つ環境を作りたいということですね
髙橋:やや高尚な理想論かもしれませんが、人財の可能性は、会社に敷かれたキャリアパスプランで役職を上げていくことだけではありません。自分で問題解決をしながら、結果を出すことにこだわるのが、本来のプロの仕事です。そこで、自分で「考える力」をトレーニングするためのOJTやワークショップに、教育をシフトしました。コロナのような経営危機が、またいつ襲ってくるか、わかりません。どんな環境でも、自分の力で社会で生きることができる力を身に付けてもらうことが、ヒカリッチアソシエイツとしての「人を大切にすること」だと考えているからです。
―自立こそ、真の意味で社員の幸せを生み出すという考えですね。ビジョンに掲げている「循環型バリューチェーンを創造し、焼きあごで食の未来を変える」についてはいかがでしょうか?
髙橋:私自身が本当にやりたいことは、幼少期から自分の心に驚きと幸せをもたらしてくれた「焼きあご」で、たくさんの人を幸せにすること。そして、この食文化を未来の世代にも変わらずに届けること。これが、私たちの存在意義だと思っています。
焼きあごの原料って孵化から90日前後のトビウオの未成魚(幼魚)なんです。これは、成魚と比べてうま味が強く、出汁をとったときに美味しく仕上がるという伝統が残っているからです。けれども、未成魚ばかりを集中的に漁獲することは、持続可能とは言えません。実際、現在海で泳いでいるトビウオの大半は成魚なのです。 そこで私たちは現在、産卵を経験した成魚でも未成魚と同等以上の品質で独自製法の焼きあごを作る研究を東京大学と共同で進めています。研究成果は着実に出ており、現在(2022年8月末)実装実験段階に入りました。特許出願の準備も進めています。実用化がうまくいけば、水産資源を成魚・未成魚問わず、包括的に有効利用することができ、まさに持続可能な焼きあごの量産が可能になります。だし業界のイノベーションともいえる世界初の新技術です。供給の課題が解決することで、今後更に焼きあごの市場は成長するでしょう。その中で、自社ブランド商品の企画販売にも注力していきます。
―お店でラーメンを食べるだけでなく、別のシーンでも焼きあごの味を発信していくことができるようになるということですね。
髙橋:実際に現在、弊社オリジナルの焼きあご白だしを店舗で販売していて、これが結構人気なんです。私たちは飲食の店舗があるから、実際に店頭でお客さまに試飲してもらって購入を促すこともできる。これは、メーカーにはできない、飲食企業ならではのアドバンテージです。 そして、これらの商品開発について外すことができないのが、「らぁ麺やまぐち」の山口裕史さんとの出会いですね。
「クリエイティブ」という足りないピースを埋めるため、山口裕史と手を組み商品力を向上
―当時、「たかはし」と「やまぐち」が手を組んだということで、業界内でも注目が集まったことが記憶に新しいです。
髙橋:理念や組織体制を新たに構築していく中で、圧倒的な商品開発をできる人財がいなかったんです。この欠けているピースをどのように埋めようか悩んでいた頃、ラーメン業界の経営者の集まりでお会いしたのが山口さんでした。 山口さん自身は、ひとりの料理人として高みを目指していきたい。けれども、Raイノベーションの店舗は山口さんありきの体制になっているため、安易に離れることはできない。一方、私たちは社員教育を徹底して改善したため、店舗オペレーションの構築や従業員教育は得意。足りないのは圧倒的な商品開発のクリエイティブ。
話をしてみると、互いに自分の足りないものを相手が持っている状態だったんですね。さらに、「いいものを作りたい」、「もっと成長したい」という熱い思いも共通している。 「これは、一緒にやるしかない」。そう考えて後日、私の方から山口さんにお話をしました。私たちはRaイノベーションの店舗を山口さんに代わり運営する。だから、山口さんは唯一無二の商品開発力で「たかはし」の商品開発に力を注いでほしいとお願いして。
―そうして2021年4月にヒカリッチアソシエイツがRaイノベーションの全株式を取得するわけですね。あれから1年以上経ちましたが、結果はいかがでしたか?
髙橋:飲食事業、商品事業ともに商品開発のスピードが圧倒的に加速しました。飲食事業の方では新商品だけでなく既存メニューのブラッシュアップもお願いしているのですが、山口さんが入った後は、現場スタッフのクオリティへの意識も高まったことを感じます。商品力の底上げができた印象ですね。 また、商品事業に関しては現在店舗で販売している焼きあご白だしのほかにも山口さんの脳内ですでに何種類ものアイデアがあり、アウトプットに向けて着々と開発を進めています。 正直な話、M&Aをした直後は「山口さん、本当は嫌々じゃないかな」なんて一抹の不安を抱くこともありました。けれども、実際に動き始めてみると、すっかり焼きあごファンになってくれて、楽しそうに開発をしてくれています。彼自身、自分でも想像していなかった道を楽しんでくれているように見えますね。
社長の大切な仕事は、言葉で伝えること。焼きあご文化の認知をさらに広げる!
―それでは最後に、今後の展望をよろしくお願いします。
髙橋:ミッションである「焼きあご文化の発展」の実現に向けて展開を広げていきます。飲食事業ではFC展開にも着手して店舗数を増加。それと同時進行で自社製法の焼きあごの量産体制を構築。長期的に事業を持続させ、人財を育てていける企業として成長していきたいと考えています。 その先で、日本で焼きあご文化が浸透したら、海外にも発信をしていきたいですね。日本の代表的な出汁として世界中の人に焼きあごのおいしさを楽しんでいただきたいです!
―「ラーメン屋」として始まった御社ですが、今後はそこに捉われず「焼きあごの総合企業」として展開していくということですね。
髙橋:まさにその通り! 今後、飲食企業が大事にすべきなのは、過去の常識に囚われることなく、自社にしかない強みを活かして、社会に貢献していくことだと思うんです。私たちは、それが「焼きあご文化の発展」なんですね。そのために社長がやるべきこと。特に、私のような創業社長は、「どんな想いで創業したのか。今、企業はどこへ向かっているのか。何をやるべきなのか。なぜ、それをやるのか。」そういったことを、自分の言葉でしっかりと届けていくこと。信念や想いは、たとえどんなに優秀な研修講師であっても、社長が語る方が効果的です。これは、企業における社長の重要な役割なのだと思います。
株式会社ヒカリッチ アソシエイツについて
株式会社ヒカリッチアソシエイツは、「焼きあご塩らー麺 たかはし」「らぁ麺やまぐち」をはじめとしたラーメン専門店を展開。「心を豊かにする特別な日常を共創する」という企業理念のもとに、店舗運営のみならず、焼きあごの製造、「焼きあご白だし」等の自社商品の企画販売など事業領域を拡大中。 株式会社ヒカリッチ アソシエイツ HP:https://hikarich-a.com/
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