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飲食店M&Aにおける事業譲渡とは? 株式譲渡との違いやメリット・デメリットを解説
2021年06月16日
保有する株式を譲渡するイメージが強いM&Aですが、株式の移転を伴わない事業譲渡という手法があります。複数の事業部を持つ大企業で行われることが多いスキームです。事業譲渡は株式譲渡と異なる点が多く、従業員の身の振り方も変わってきます。具体的にどのようなところに違いがあるのか、事業譲渡の概要とともに紹介します。
飲食店M&Aにおける事業譲渡とは?
株式譲渡では株式の所有権を新たな株主に移し、会社が保有する資産をすべて売却します。一方で事業譲渡は、会社の一部を売却する方法です。飲食店の場合は主に、店舗、ブランド、設備、工場、人、取引先などの権利を譲渡します。
事業譲渡の一例としては、2020年3月31日の居酒屋『とり鉄』などを運営するJFLAホールディングスが子会社・アスラポートの『牛角』事業を、コロワイドの子会社・レインズインターナショナルに譲渡したことが挙げられます。
これはアスラポートが展開していた『牛角』のフランチャイズ事業を、『牛角』ブランドを運営する大元のレインズインターナショナルに売却したというもの。JFLAは居酒屋やラーメン店などの主力事業に経営資源を集中することができ、コロワイドは中核事業の一つである牛角の店舗数を増やすことができます。
事業譲渡を行う際のメリット・デメリット
■譲受企業のメリット
・負債を引き継ぐリスクが少ない ・必要な店舗や事業だけが手に入る
事業譲受は資産の範囲を決められるため、負債を引き継がないという選択ができます。また、不要な資産を外すこともでき、欲しいものだけを手に入れることができます。譲受する範囲を選択できる点は事業譲渡最大のメリットといえるでしょう。
■譲受企業のデメリット
・手続きが煩雑 ・許認可を引き継げない
事業譲渡の場合、従業員や取引先との契約を再度締結する必要があります。取引先との同意が得られなかった場合、取引ができないこともあるので注意が必要です。また、許認可は引き継げないため、譲受する事業の許認可がない場合は監督官庁に申請をする必要があります。
■譲渡企業のメリット
・経営資源を集中できる ・譲渡利益が得られる
不動産会社やスーパーマーケットなどが、飲食事業を展開するケースはよくあります。しかし、こうした事業の中には、新型コロナウイルスの感染拡大によって不採算事業となってしまったものもあります。この場合、飲食事業を譲渡し、本業に経営資源を集中することで会社の成長が促進されることが考えられます。譲渡利益が得られるため、本業に投資できる幅も広がるでしょう。
■譲渡企業のデメリット
・手続きが煩雑 ・負債が残る
事業譲渡は手続きが煩雑になります。これは特に、従業員に対する個別の対応が必要なことに起因します。従業員は新たな会社の社員になるため、個別に交渉をして同意を得なければなりません。従業員数が多い場合、非常に時間がかかります。
また、取引先や賃貸借契約も承継の手続きを行う必要があります。負債がそのまま残る点もデメリットの一つです。交渉次第で資産を移すことも可能ですが、交渉力が必要になり、手続きが更に煩雑になります。
従業員のケアが重要なポイントに
事業譲渡の場合、譲渡企業の雇用契約が譲受企業にそのまま引き継がれるわけではありません。ここが一番のポイントです。従業員は引き継がれた会社で新たな雇用契約を結ぶことになるのです。
そのため、株式譲渡の場合は情報が流出しないよう、経営者同士で話を進めるのが一般的ですが、事業譲渡の場合は必要に応じて適切な情報を従業員に開示する必要があります。ある日突然、新しい会社と雇用契約を結ぶよう迫られれば、反発や離反を引き起こす可能性があるからです。
また、従業員は譲渡される前の会社の待遇に満足し、理念や文化への共感も強いケースが多く、離れたくないと思う人もいます。譲渡企業はそれを粘り強く説得する必要があります。特に譲受企業が従業員も含めて引き継ぐことを望んでいる場合、万が一従業員の大量離反を招くことになれば、契約そのものが白紙になることも考えられます。
また、譲受企業が従業員との間で新たに雇用契約を結べたとしても、当然これは強制できるものではありません。従業員はいつでも離職することができます。譲渡企業、譲受企業の双方が従業員の混乱を招かないよう、慎重かつ協力的に進めることが重要です。
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