有楽町の純喫茶『ローヤル』。支配人が振り返る「半世紀以上も営業を続けられたワケ」
1965年の開業から半世紀以上、東京・有楽町駅前のシンボルとして時を刻んできた東京交通会館。そんなレトロな香りが漂うビルの地下には、やはり昭和時代にタイムスリップしたかのような喫茶店が、ビルの歴史とともに営業を続けている。純喫茶『ローヤル』だ。
金色の王冠が輝く店のロゴマーク、壁に埋め込まれた懐かしい食品サンプルケース。そして一歩店内に入ると、赤いベルベット生地の低いイスと年季の入ったテーブルが並んでいる。
今はコロナ対策で席の間隔をあけているが、最大キャパシティは何と120席。喫茶店にしては広大な空間を誇る。また、店内の壁面は大理石やステンドグラス、シャンデリアなど豪華な装飾が施され、格子天井もひときわ高い。昭和というよりも、大正ロマンを感じるオシャレな洋館のイメージだ。
「店の内装は先代社長の趣味で、以前、大阪にあった喫茶店の高級感ある落ち着いた雰囲気を参考にしたそうです。オープン以来、店内のインテリアはそのまま。一度も改装はしていません」
そう話すのは、支配人の野山弘氏(運営会社・大和食品工業の取締役)。現在74歳の野山氏が『ローヤル』の営業を任されるようになってからも、四半世紀の時が流れた。
「かつて店の向かいには東京都庁の丸の内旧庁舎があって、都の職員さんたちがウチにモーニングを食べにきたり、打ち合わせの場所として使ってくれたりと賑わっていたのですが、1991年に新宿に移転してからお客さんがさっぱり来なくなりました。また、交通会館にはパスポートセンターがあり、昔は旅券申請の待ち時間にコーヒーを飲みに来る人が多かったんですが、その後、パスポート申請は色々な場所でできるようになりましたからね。そんなことも重なって店の経営が苦しい時期が続きました」
メニューの見直しで窮地を脱する
そこで、野山氏は現在の二代目社長と一緒に、起死回生の様々なリニューアル策を打ってきた。真っ先に取り組んだのはメニューの見直しだったという。
それまでドリンク以外はトーストやゆで卵などの軽食しかなかったが、カレーやピラフ、スパゲッティーなど食事メニューを揃えてランチ営業を強化した。現在も『ローヤル』の人気メニューとなっている「ナポリタン(ドリンク付850円)」は、口の中でケチャップ感が広がる懐かしい味わいだ。また、カットされたメロンなどが贅沢に盛り付けられた「季節のフルーツパフェ(800円)」や「フレッシュバナナジュース(650円)」、喫茶店では先駆け的に取り入れたという「ハニートースト」(600円)など、女性客に好まれるスイーツ類も充実させた。
それだけメニュー数を増やせば厨房の人手やホールスタッフの労力もかかるが、人材はむしろ省力化の方向を志してきたという。
「経営が苦しい時はスタッフの育成などをしている余裕がなかったので、飲食店経験が豊富な即戦力を採用し、調理だけでなくそれまで女性が担ってきたホール業務もすべて男性が行うようになりました。そして、気付けば勤続年数が10~20年と長いスタッフばかりになってしまいました。もちろん、一番のベテランは私ですが(笑)」
身だしなみを整えたアクティブシニアの男性たちが切り盛りする喫茶店。オシャレな店内空間も相まって、まさに“銀座の入口”にお似合いな客層も多いのかと思いきや、意外にそうでもないらしい。
「確かに有楽町は銀座や丸の内、日比谷といった大企業も集まる高級街に程近いのですが、昔は商店街などもあって、ざっくばらんな“下町風”だったんです。これが銀座となるとピカピカの革靴をはいてスーツを着て歩くのが当たり前というイメージがありますが、有楽町はジーパン、サンダルでも気楽に入って来られ、安く飲み食いできる店も多く残っている。だから、ウチの店なんかでも、昔から通ってくれている常連さんとは今でも友達みたいな関係。私が具合悪そうにしていると逆に心配してくれますしね」
先日は定年退職でしばらく店に顔を出さなかった常連客のひとりが、「家にいると居場所がなくてね…」とひょっこり現れたと嬉しそうに話す野山氏。