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月商200万円のワンオペ店『mille』。“ひとり”という選択肢がもたらすもの

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「本当は、ワンオペだとこの規模は少し広すぎるくらい」と千葉シェフ。店舗建設時には、共済や助成金も検討したという

徹底した事前準備と工夫が、流れるようなパフォーマンスを生む

千葉シェフの一日は、昼過ぎから始まる。店に着くとまずは買い出しに出かけ、14時ごろから仕込みを開始するとそのままノンストップで営業に突入。平日であれば、お客が引き始めるのが23時前後。そこで初めて軽く食事をとるなど一息つき、その後清掃を済ませて、店を出るのは決まって日をまたいだ深夜だ。

すべての作業をひとりでこなさなければならないからこそ、少しでも高いレベルでお客をもてなすための試行錯誤は人一倍に続けてきた。

たとえば、アミューズ用のタルトやシュー生地の仕込みは数日分をまとめて行い、生のまま冷凍。その日に必要な分だけを焼き上げることで、美味しさと日々の作業量の削減を両立させる。前菜や肉料理に使う食材もあらかじめ2名分ずつに小分けし、真空保存しているという。調理には低温調理器やオーブンをうまく活用しながら火入れの合間にほかの調理を行うなど、限られた時間と手数を効率よく使うためのフローはまるでパズルのよう。仕込み中に試作をしたり、カウンター越しのお客の反応を見ながら瞬時に味や量の微調整ができるのも、ワンオペならではだろう。

ある日の一品。『本マグロとビーツのマリネ レフォール(西洋ワサビ)のクレームとパルメジャーノ』

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「お客様に“店”を理解してもらうことも大切」

また、予約にも独自のルールを設けている。同じ時間に2組以上の予約は受けず、必ず30分以上ずらすというのだ。少しでも待ち時間を少なくし、すべてのお客に気持ちよく食事を楽しんでもらうための工夫のひとつだ。

「ワンオペの一番の弱点は、時間がかかることです。だからこそ、こちら側もできる限りの準備をした上で、うちがどういう店でどんな風に楽しんでいただきたいのかを事前にお客様にお伝えし、理解していただくことも大切だと思っています」

自由に、そしてゆっくりとフランス料理とナチュラルワインを楽しんでほしいというのが千葉シェフの一番の願い。お客には最大限に満足して帰ってほしいからこそ、小さなことでも懸念がある場合は予約時に伝えるという。

具体的には、グループ内で遅れてくる方がいる場合は、次の予約と時間が重なってしまうためスムーズな対応が難しいこと。食事だけを早く済ませたい方にはご遠慮いただいていること。どうしてもスタート時間が調整できない場合は、料理提供に時間がかかる可能性があること……。心苦しい部分もあるというが、最初に納得して来ていただくことでお互いのフラストレーションは最小限にできると話す。

「コース料理一本に絞ればもっと楽なのでしょうが、それは僕が望む食事の楽しみ方ではない。このスタイルだからこそ月に4、5回来てくださるお客様もいらっしゃいますし、何より、その日が始まってみないとわからないドキドキ感が僕自身も楽しいんです」

ワンオペだけど、ひとりじゃない。切磋琢磨し合える仲間の存在がパワーに

確かに店に立つのはひとりだが、支えてくれる人はいると千葉シェフはいう。顔なじみの常連客や、近隣のナチュラルワイン店のオーナーたちの存在だ。

「お客様でもあり友人でもあり、ライバルでもあり仲間でもあり、とても心強い存在です」

営業後に誰かの店に夜な夜な集まっては、近況を共有したり困りごとを話し合ったりして、ワインを飲み交わすのが最高に楽しい瞬間のひとつだと話してくれた。

デリバリーや冷凍通販を含め、飲食店の在り方が大きく変化を遂げたここ数年。料理のジャンルを問わず、ワンオペも選択肢の一つとして広がっていくだろう。ただしその裏には、計り知れない努力と工夫、そして店主の確かなビジョンが不可欠であることを忘れないでおきたい。

お客の6、7割はリピーター。常連客の紹介で来る新規客も多い

『mille』
住所/東京都中央区東日本橋2-8-1
電話番号/03-5829-8138
営業時間/18:00〜22:30(L.O.)
定休日/日曜+月2〜3日(不定)
席数/12席

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山本愛理

ライター: 山本愛理

フリーライター・エディター。WEBを中心に食にまつわる記事を執筆。 昔ながらの喫茶店から星付きレストランまで、美味しいものを通して幸せな時間を提供してくれる人の声と熱を届けるのが好き。空いた時間はもっぱらカフェ巡り。