【私の偏愛】神泉・イタリア郷土料理『アウレリオ』大本陽介さん|そこにはいつも人の熱量がある
何かを確かめるように行く『オーバカナル』
例えばその一つが、日本初のフレンチカフェ&ブラッスリーとして愛される『オーバカナル』。「フランスの大衆食文化を伝える」をコンセプトに掲げ、30年にわたり本場のスタイルを追求し続ける日本におけるフレンチ食堂のパイオニアだ。今ではあえてメディアで大きく取り上げられる機会は少なくなったが、この『オーバカナル』に代表されるように、変わらず愛され続ける店には自然と足が向くという。
「紀尾井町店にお一人、ベテランのサービスマンの方がいらっしゃるんです。決して距離感は近づき過ぎないんですけど、何気ない言葉遣いにシャレが効いていたり細かいところに気配りが感じられたりする方で。これまでの経験や仕事への誇りがにじみ出ているのが、すごく素敵なんですよね。だから心から安心して、自分の時間を預けられるんです」
店主自らがセレクトした古着屋の古着や、蚤の市で出合う骨董品にも、同じような“匂い”を感じるという大本さん。誰かが手をかけ大切にしてこなければそれは今、存在すらしないものであり、その裏側には必ず人の熱量があるというのだ。
NO FUN, NO TABLE!「楽しい」ところに人は集まる
また、昨年久しぶりにイタリアを訪れた際の思い出も話してくれた。本場でも非常に高く評価されるボローニャ郷土料理の店『オステリア・ボッテガ』を訪れたという大本さんは、そこには11年前に修業に訪れた時と変わらないイタリアの食文化が息づいていたと感慨深そうに振り返った。
「予約をしたくて直接店を訪ねたらまず、オーナーのダニエーレさんが初対面の僕に『おぉ、よく来たな!』って驚くほど気前よく迎えてくれたんです。『じゃあこのテーブルでいいか? またあとでな!』なんて言いながら、カルタジャッラ(紙製のランチョンマット)に僕の名前をバーッて書いてくれて。食事中もずっと僕の肩をトントンと親しげに叩きながら『どうだ、うまいか?』って楽しそうに笑うんですよ(笑)。世界中からフーディーたちが殺到する店なのに、シンプルにみんなでテーブルを囲んでおいしい食事を楽しむ文化が生きている。やっぱり食卓ってこうだよな、僕もこういう“食事の場が大好きなおじさん”でいたいなって思いましたね」
昨今、日本ではお客に独自のルールを設ける飲食店も少なくない。大本さんはそれを決して否定するつもりはないというが、お客も店側も、何かに縛られたり窮屈さを感じたりすることなく、ただただ笑顔であふれる食空間があることに感銘を受けたと語った。これこそ、食事の原点であり、こういうところに人は集まるのだ、と——。
「大谷選手が好きなのも、その努力の背景が見えることと、とにかく楽しそうに野球をしているからでしょうね。やっぱり熱量を持っている人って、かっこいいですよ」




