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月商1,000万円超えの門前仲町『宿酒 きんきん』。客単価倍増させた2つの戦略【連載:居酒屋の輪】

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桐箪笥の引き出しを開ければ、厳選された酒器や食器がずらりと並ぶ。器を楽しむことも店の魅力の一つだ

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「星付き」の景色を知る人材をスポット登用。組織に根付かせた“圧倒的顧客目線”

ハード(空間)が整えば、次はソフト(人・料理)の進化だ。しかし、一朝一夕でスタッフの意識を変えることは難しい。そこで坂本さんが導入したのが、外部のプロフェッショナルによるコーチングだった。

「社内の人間だけで意識レベルを上げようとしても、限界があります。そこで投資家として有名な東京スペクターさんにコーチングを依頼しました。パリや日本の星付きレストランでの勤務経験者も紹介してもらい、彼らの知見や振る舞いを現場に落とし込んでもらうことにしたのです」

和食をベースにしつつ、洋のエッセンスを取り入れた創作料理。競合ひしめく門前仲町において、他店にはない付加価値を提供する

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多くの飲食店経営者は、コストやプライドが邪魔をして「自前主義」にこだわりがちだ。しかし坂本さんは、「自分もスタッフも、まだ本質を知らない」という事実を素直に認め、外部の知恵を積極的に借りる道を選んだ。

「超一流の世界を知る人たちが、普段どこを見て、何を考え、どう動いているのか。その『マインド』を肌で感じることが、最も早い成長につながります」

星付き店経験者からのフィードバックは、スタッフたちのマインドを醸成させた。例えば、お客が椅子に座った瞬間の心地よさ、メニューを眺めた時の高揚感、料理が運ばれてきた時の第一印象。すべてにおいて「自分たちが作りたいもの(エゴ)」ではなく、「お客さまがどう感じるか(顧客目線)」を徹底的に追求するマインドである。

「まず『作りたいものを作る』というエゴを捨ててもらいました。その一皿を食べた時、お客さまはどう思うのか。この空間にふさわしいサービスとは何なのか。その『最適解』を突き詰めることだけを求めたのです」

その結果、かつて大衆酒場のようだった接客は、空間に調和した「上質なもてなし」へと変化。スタッフ一人ひとりが「単価8,000円以上に見合う価値」を自問自答しながら動く組織へと変貌を遂げた。

店のシンボルとなっている、日本酒セラー横の年代物の桐箪笥。重厚な存在感が空間を引き締める

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器を変え、仕入れを変え、原価をかける。料理で示す「店の格」

空間とサービスが向上すれば、当然、料理への期待値も跳ね上がる。その期待を超えるために、坂本さんは「器」と「原価」への投資を惜しまなかった。

「オープン当初、使用していたのは個性のない業務用の皿でした。それを、ガラス製の上質な器や、料理が映えるデザイン性の高いものに入れ替えたんです。器が変われば、盛り付けも変わります。料理人たちの意識も、自然と『この器に見合う料理を作ろう』という方向に引き上げられるんです」

透き通るようなガラスの器に盛られる刺身。宝石のような輝きを放つ

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特に力を入れたのが、居酒屋の顔とも言える「お造り」だ。『宿酒 きんきん』の看板メニュー「お造り五点盛り合わせ」は、その象徴である。複数の業者を再開拓し、最も質の良い仕入先を選定。原価率はあえて高く設定し、圧倒的な鮮度と質を追求した。

「最も店の格が反映される」と坂本さんが語る「お造り五点盛り合わせ」二人前3,600円

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「お造りは、どこの居酒屋にもあるメニューです。だからこそ、その店の実力が一目で分かってしまう。お客さまが必ず注文する商品で圧倒的なクオリティを見せつけることができれば、『この店は他とは違う』と認識してもらえます。原価がかかっても、ここは絶対に妥協してはいけないポイントなんです」

他のメニューで原価バランスを調整しつつ、一点突破のキラーコンテンツを作る。このメリハリの効いた商品戦略が、顧客の満足度を高め、高単価でも「安い」と感じさせるコストパフォーマンスを生み出している。

坂本さん自身も、経営者として現場に立ち続けるだけでなく、積極的に外の世界へ学びに出ているという

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「現場に入り込んでいると、どうしても客観的な視点を見失いがちです。私自身が超一流店に通い、その空気感や味、サービスの本質を理解していなければ、スタッフに指示を出すこともできません。美的センスや味覚を養い、経営者自身が成長し続けること。それが、優秀な人材を惹きつけ、組織を大きくするための条件だと思っています」

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。