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ビブグルマン獲得のラーメン店『一福』。創業から28年、女将に聞く「愛される店づくり」

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お話をうかがった『らぁめん 一福』の店主・石田久美子さん

東京・初台に開業して今年で28年目の『らぁめん 一福』。都会の商店街の中にある、小料理屋を思わせる佇まい。手作りの暖簾をくぐると、女将の石田久美子さんが穏やかな表情で「いらっしゃい」と迎えてくれる。我が家に帰ってきたかのような、ホッとする空間だ。

2017年から2年連続で『ミシュランガイド』のビブグルマンに選出され、日本テレビ「嵐にしやがれ」といったTV番組でも度々紹介される。“ラーメン通”にとってはよく知られたお店だが、石田さんによると「基本的には地元の常連客が多い」そうだ。街の人から長く愛され続ける店作りの秘訣とは何だろうか。石田さんに話を聞いた。

初台の不動通り商店街の中にある『一福』。初台駅からは徒歩10分ほど

家庭の主婦から一転、ラーメン屋の店主への転身劇

『一福』は仕込みから調理まで、基本的には石田さんひとりで行っている。石田さんに取材のお願いをしたときに今回の企画趣旨を伝えたところ、「秘訣だなんて。ただ長く続けてきただけですよ」と謙遜していた。しかし、今日にたどり着くまでは、決して平たんな道のりではなかった。

「お店を始めたのは1990年。お恥ずかしい話ですけど、別れた主人が脱サラしてラーメン屋をやりたいと。当時は参宮橋に住んでいたのでその周辺を探していたんですけど、バブルの時代だったので駅前などの良い場所はほとんど空いてなかった。やっと見つけたのが、移転前のあの物件だったんです(※2012年4月までは現在の店から徒歩3分ほどの別の物件で営業をしていた)。だから、その当時は別れた主人と私の母とで経営していたんですよ。でも当の本人はラーメン屋は合わなかったようですね。別れたときにラーメン屋を閉めようかなとも思ったんですけど、借りていた場所の原状回復工事をするのにお金がかかるので、なんとか1人でやろうと営業を続けたんです」

石田さんはそれまで専業主婦一筋。接客業の経験もない。ラーメンを1人で作る重労働は、身体にも心にも負担をかけた。「母のおかげで続けてこられたようなもの」と当時を振り返る。

「1日10人もお客さんがこないし、売上が1万円に届かない日が続いて、何度も辞めたいと思いました。母が生きていた6年間は、毎日のように母に『つらい』と言ってたんです。でも母は、『これしかないんだからやりなさい』と。母が助けてくれたからやってこられたようなものなんです。それに、今みたいにインターネットが普及していない時代だから続けられたのかもしれませんね。今の時代だったら『こんなまずい店、もう行かない』って書かれちゃうと思いますよ(笑)」

母の気持ちに応えるように、どんなにつらくても『一福』の営業を続けた。メニューは何度も改良。都内近郊で美味しいといわれるラーメン屋があれば足を運び、味の研究を重ねた。そんな日々を経て「なんとか軌道にのった」のは、“ラーメン王”である評論家・石神秀幸氏のおかげだと語る。

「石神秀幸さんが助けてくださったんです。当時石神さんの事務所が近くにあって、よくうちに食べに来てくれていました。石神さんが著書に載せてくださったおかげで、テレビにも出させていただいて。そこから少しずつお客さんが増えていきました。本当に少しずつですけどね。だからここまでこられたのは、石神さんのおかげだと思っています」

著名人のサインが飾られている店内。石神氏やはんつ遠藤氏のサインも

そして現在『一福』の評判は、インターネットをはじめ石田さんの想像を越えたところまで広まっている。その人気の秘訣は、心に染みわたるような優しい味わい。気どった主張はないものの、まろやかな味の中に一本芯の通ったコクがある。作り手の人柄を感じさせるようなこの一杯は “おふくろの味”そのもの。

「もともと、どこかで修行を積んだわけではありませんし、ラーメン屋としてのノウハウがあるわけがないただの主婦でしたから。だからそういう味になったのかもしれませんね。自分が美味しく食べられるもの、体に良いもの、お客様に喜んでいただけるものを提供したいなとは常日頃思っていました。油は極力控えていますし、化学調味料を使ってないから、パンチのある個性的な味ではないですけどね。昼にしか営業していないので、短い時間ですけど、うちにきてホッとしていただいて、また午後のお仕事を頑張っていただけたらと思ってます」

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。