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飲食店は“個性”があれば広告は要らない。FOODIT TOKYO 2018で語られた「究極のオリジナリティ」

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『ウルトラバイオレット』の店内の様子 ※トークセッションのモニターを撮影

1日10席限定、“戦略的赤字”のレストランも

飲食店をエンターテイメントの場として考えることでオリジナリティを生み出している店は海外にも多いが、特に上海の『ウルトラバイオレット』は世界的にも有名な店だ。

「『ウルトラバイオレット』に行くには、まず違うレストランに集合して、そこからバスで移動します。そして着いたと思ったらそこは倉庫で、招待客は1日10人限定。プロジェクションマッピングで料理ごとに内装や皿が変わるという仕掛けで度肝を抜かれました(本田氏)」

単なるエンターテイメント系のレストランかと思えば、世界的にも有名なポール・ペレというシェフが料理長を務めているらしい。柳瀬氏は、「フレンチシェフであれば、このようなレストランを嫌うのでは?」と指摘する。

「これはポール・ペレが昔から温めていたプランで、投資家を集めてオープンしました。ポール・ペレは投資家に対して『この店は儲からない。でも損失額は確定できる。この店で自分の料理を知ってもらって、別の大箱のレストランで損失を回収しましょう』ということを提案したんです(本田氏)」

つまり、『ウルトラバイオレット』は「宣伝をする」のための店で、もうひとつのレストランが「利益を出す」ための店だということだ。ふたつの異なる性格のレストランを戦略的に使い分け、ビジネスを展開させている非常に珍しい形だと言えるだろう。

『エチェバリ』の厨房の様子 ※トークセッションのモニターを撮影

「オリジナリティ=奇抜」という意味ではない

ここまでの話では、「オリジナリティ=奇抜なもの」というようにも聞こえるが、決してそういう意味ではないらしい。スペインのバスク地方にある『Etxebarri(エチェバリ)』は、世界中の美食家が「ここが世界で一番好き」と口を揃えるレストランだ。

「この店では薪を使った料理、いわゆる熾火(おきび)料理だけを提供しています。“今まで食べてきたのはなんだったんだ”と思えるくらいの甘さを感じるアンチョビとか、ここでしか味わえない料理が楽しめます。世界にはいろんなレストランがあるけど、最近は“いい食材をシンプルに”というのが流れになってきている。この店もそうなんですけど、でも、薪を起こす作業は結構大変なようですね(本田氏)」

『エチェバリ』の料理の特徴は、ある意味、原始的とも言えるほどの“シンプルさ”だ。派手さやパフォーマンスはないが、食材の選び方や鮮度、火の入れ方などを追求することで、他の店が絶対に真似できないメニューを作ることに成功し、多くの美食家を虜にしている。余計なものを削ぎ落とし、「味」そのものでオリジナリティを出している例である。

また本田氏は、ハワイで腕をふるう寿司職人・中澤圭二氏の魅力についても教えてくれた。四谷『すし匠』で確固たる地位を築いてきたレジェンドが、突然ハワイに店を出したことは業界内でも大変な話題になった。

「ハワイとアメリカの魚だけを使って寿司を提供しています。これってすごいチャレンジなんです。“ハワイの魚って寿司にできるの?”って誰もが思いそうですが、江戸前の技術を使って素晴らしい寿司を提供しています。ここでしか食べられない唯一無二のオリジナリティが『すし匠』にはあります(本田氏)」

「オリジナリティがあれば広告は必要ない」と語る本田氏

オリジナリティがあれば、広告は必要ない

オリジナリティのある店とは、変わった店、奇抜な店ということではない。オリジナリティを追求するその姿勢にお客が感心、感動するような店のことだ。本田氏は、「お客さんが誰かに言いたい、伝えたいという気持ちを持ってもらうことが大事」だと言う。確かに、本田氏が紹介した店はどれも個性的で魅力ある店であったと同時に、記憶にも残りやすく、人に伝えたくなる特徴やキーワードがある。「オリジナリティがあれば、オーナーや料理人が宣伝しなくても、誰かが勝手に取り上げて、宣伝をしてくれるんです。広告は必要ない」と本田氏は強調する。

飲食店が増えすぎて飽和状態と言われる今、本田氏が挙げた人気店のように、「行ってみたい!」という強烈な思いを客に抱かせることが繁盛店の近道だといえる。他店にはない強みはなんなのか、そこを掘り下げることから始めてみるといいかもしれない。

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大槻洋次郎

ライター: 大槻洋次郎

父親が喫茶店を営む家庭に生まれ、31才の時にカフェで独立開業。個人経営のこだわりカフェの先駆者的存在となった。現在は大手カフェスクールや展示会での講師活動、飲食店の開業支援などを行なっている。現場目線の初心者でもわかりやすいノウハウに定評がある。メディア出演も多数。得意料理はパスタ。