近畿大学がウナギの人工ふ化、初期飼育に成功。4年で飲食店への流通目指す
クロマグロの完全養殖に世界で初めて成功した近畿大学が、今度はニホンウナギの人工ふ化と50日間の飼育に成功した。3年ほどで完全養殖の技術を確立させ、商業利用の実現を目指すという。
採捕量激減で絶滅危惧種に指定されたウナギ
土用の丑の日だけでなく、新しい門出やお祝いの時に食べるなど、ウナギは昔から日本の食文化において欠かすことができない食材だ。しかし、近年ニホンウナギの漁獲量が激減し、価格は高騰。一般家庭の食卓から姿を消しつつある。
水産庁の調査では、ニホンウナギの国内漁獲量は1961年の約3,400トンをピークに、2015年の70トンまで大きく減少。海洋環境の変動や親ウナギ・シラスウナギの乱獲、生息環境の悪化などを原因にあげている。
2013年、環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定。2014年には国際NGOの世界自然保護連合(IUCN)が、絶滅危惧種の3区分のうち2番目に危険度が高い「絶滅危惧1B類」に指定した。
また、2010年から2012年の3漁期連続で不漁となり、池入数量も大きく減少したことから、水産庁は2012年、ウナギ養殖業者向けの支援やウナギ資源の管理・保護対策を行う「ウナギ緊急対策」を定めた。
国内消費量の99%以上を占める養殖にも危機
日本人が1年間に食べるウナギは約6万トン。その99%以上を養殖に頼っている。しかし、その養殖に関しても危機が迫っている。ウナギ養殖の元となる種苗に用いられる稚魚「シラスウナギ」の漁獲量が激減しているのだ。
水産庁によると、シラスウナギの採捕量は過去最低の水準で推移している状況だという。1963年に232トンを記録していた採捕量だが、2018年は8.9トン、2019年には3.7トンにまで落ち込んだ。不漁は当然のことながら価格の高騰にも直結。2003年には1キロあたり16万円だった取引価格が、2013年には過去最高の248万円まではね上がった。
近畿大学が人工ふ化に成功。完全養殖と量産を目指す
現在シラスウナギの確保が緊急課題となっており、1日も早い完全養殖の実用化が望まれている。
ウナギの完全養殖に関する研究はこれまでも行われてきた。1973年に北海道大学で人工ふ化、2010年には水産総合研究センターで完全養殖に成功したが、コストの問題で大量生産ができず、実用化はされていない。
近畿大学の水産研究所では、1976年からウナギの種苗生産研究を始め、1984年と1998年に採卵・ふ化に成功したが、エサを食べるまでには至らず、研究は中断された。そして今年3月、近畿大学の浦神実験場が、完全養殖を研究室で成功させた国立研究開発法人の水産研究・教育機構の技術情報をもとに、ウナギの人工種苗生産を目指して研究を再開。9月に養殖ウナギから卵を採取して人工授精を行い、数万尾の仔魚をふ化させた。
現在、50日齢仔魚が約20尾、43日齢が約100尾、28日齢が約1,000尾、順調に成長している。今後は、マグロをはじめとする多くの魚種の完全養殖を実現してきた技術とノウハウを結集し、シラスウナギの完全養殖の研究を進める。3年ほどで完全養殖の技術を確立し、4年後には飲食店などの商業利用の実現を目指すという。絶滅の心配をせずに、心置きなくウナギを食べられる日が、そう遠くない日にやってくるかもしれない。