『The Burn』米澤文雄シェフが考える「アフターコロナに求められる飲食店」

『The Burn』のスタッフたち。写真中央が米澤文雄シェフ
「オープン以来、連日ほぼ満席(70席)で、忙しくさせていただいてきました」。米澤文雄シェフは、コロナ以前の様子をこう振り返る。ところが、3月23日の、三密を避ける行動を要請する小池都知事の記者会見終了後、キャンセルの電話が鳴り続けた。
営業自粛する飲食店が出始めた頃、スタッフに「うちはまだ店を開けておくのか」と指摘され、“どうなるんだろう、難しいなあ”と悩んでいた。最終的に営業自粛を選択。休業中の1か月間、スタッフにタスクを課したり、全員で新しい試みにもチャレンジ。営業自粛期間を意味のある時間にするために米澤シェフが考えたアイデアとは……。
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1か月の休業が決定。「今しかできないことをやろう」
『The Burn』は様々なジャンルの飲食店を経営するSalt Groupの一員として2018年にオープン。シェフには『Jean-Georges Tokyo(ジャン・ジョルジュ東京)』を率いていた米澤文雄さんが就任。現在6名のキッチンスタッフと4名のホールを束ねている。
緊急事態宣言が発令された4月7日、統括担当者から連絡があり、1か月間休業することが決まった。ウイルスの性質もわからず、何が正しくて何が間違っていて、何をすべきなのかもわからない状況で、お客様もスタッフも心配。体力を温存するためにも一旦立ち止まろうという指示だった。
「休業する1か月間、今しかできないことを目標に掲げ、達成できるように頑張ろうとスタッフに伝えました」
仕事に反映できる目標だったり、自分の人生に必要なものを学ぼうとスタッフに提案したのだ。米澤シェフ自身のタスクはジョギングに加え、スタッフの目標を達成させることだった。日々スタッフ全員にメールし、今日何をしたのかを確認し、アドバイスしたり、鼓舞していた。実際どんな目標を掲げた人が多かったのだろうか。

休業期間中もスタッフとはメールを通じて日々連絡を取り合っていたという
「英語を勉強したいというスタッフが多かったですね」
英語の勉強といっても色々な方法がある。けれど、どこから手を付けたらいいのか意外とわからないものだ。
「僕は、『noma』(デンマーク)のレネ・レゼピのインタビューを読むことをすすめました」
それはコロナ渦中の4月7日にウェブサイト「Food and Wine Gazette」に掲載された記事だ。あの『noma』でさえコロナ禍で客が激減している状況を伝えた、レネシェフの最新インタビューだった。
「わからない単語を辞書で調べながら、理解しようと努めると結構身に付きます。今回のコロナ禍をレネシェフがどう感じているのか、今後はどうなっていくと考えているのかを知ることができるので、この記事を読むことをスタッフにすすめました」
辞書を片手に語学をマスターするこの方法は、米澤シェフ自身が実践した勉強法だった。
「22歳でニューヨークへ渡ったとき、英語の字幕スーパー付きの映画のビデオを観て英語を勉強しました。わからない単語があるとビデオを止めて、単語をノートに書き取り、辞書を引きます。1週間後にはその字幕スーパーを理解できるようになりました」
ただ闇雲に英語を勉強するのではなく、興味がある分野の記事や映画を辞書を片手に勉強すると言葉を理解できるようになるというのだ。
「飲食店で働いているのなら、コロナに直面したレネシェフのインタビューに興味があるはずです。翻って日本のレストランはどうなんだ、これからどうしていけばいいのか、自分自身と照らし合わせることもできます」
興味があれば、ウェブサイト「Food and Wine Gazette」4月7日の記事を読むことをおすすめする。

普段の店内の様子。現在は席数を減らして営業中
休業中の店にスタッフが集まり、クッキーを2250枚焼いた
営業自粛中、全スタッフが数日間だけ店に集まった。もちろん営業のためではない。会社に店の使用許可を取り、スタッフに来てもらったというのだ。
「僕がみんなに声をかけました。集まった目的ですか? クッキーを焼くためでした(笑)」
生地を作り、翌日焼いて冷ましてから手紙と一緒にクッキーを梱包した。米澤シェフも含め、計11名のスタッフが750セットのクッキーを3回焼いた。計2250枚のクッキーを焼くために5日かかった。
「クッキーは児童養護施設の子どもたちへのプレゼントでした。僕は都内で5年ほどボランティアを続けています。友人でモデルのマリーから『児童養護施設の子どもたちに手作りの何かを作り、贈り物をしたい』という申し出がありました。休校になった児童養護施設の子どもたちに、手書きのメッセージを付けてクッキーを贈らせていただくことにしました」
