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『The Burn』米澤文雄シェフが考える「アフターコロナに求められる飲食店」

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児童養護施設に贈ったクッキー

ボランティアを通じて料理人としての存在理由を確認できた

後日、子ども達から礼状が届いた。そのうちの1通を見せてもらった。寄せ書きの手紙だ。クッキーのお礼だけでなく、「コロナで大変だと思いますが、頑張ってください」といったスタッフを気遣う言葉も書かれている。

なぜ料理人がボランティアに参加するのか。意義はあるのか。

「注文された料理を作り、金銭を得るのが料理人の仕事です。でも、ときにボランティアも大切なのではないでしょうか。たとえ礼状をもらえなくても、感謝されなくても、料理人としての存在理由を確認できるし、存在意義を高めることができると僕は信じています」

こんな時だからこそ料理人として何ができるかを考えるべきだというのだ。けれど、なぜスタッフにも協力してもらったのか。

「チームとして成し遂げることで達成感を得られると思ったからです。金銭を受け取る仕事とは価値観が異なる、ボランティアという活動もあることを知ってほしいと考えていました。将来シェフになったとき何か感じるものがあるだろうという思いもあり、手伝ってもらうことにしたんです」

特に今回のボランティアはコロナ禍の営業自粛中だったこともあり、“想定外の感情”も湧いたと米澤シェフは告白する。

「なにかをしていないと不安になる状況でした。そんなときに全員が店に集まり、時間を共有することができた。みんなでクッキーを焼いたという達成感だけでなく、幸福感も得られたのではないでしょうか。少なくとも僕自身は救われたと実感しています」

子ども達から届いた寄せ書き

来店してもらうためには「選ばれる理由」が明確でなければならない

5月7日に営業再開することにした。その判断をしたのは米澤シェフ自身だった。

「会社からは『営業再開は僕に任せる』と言われたので、『店に行こう』と書いたメールをスタッフに送りました。美味しいものを食べているときはみんな笑顔になれます。その笑顔を見たくて、営業再開することにしました」

営業再開した初日の7日は約10人が来店。むろん大赤字。テイクアウトもやろうと判断し、『The Burn』特製ステーキサンドや熟成肉バーガーなどをメニューに掲げることにした。特製ステーキサンドは毎日20個ほど作り、完売が続いている。土曜は30個作らなければならないほど盛況だ。5月25日頃から少しずつ客が戻ってきた。5月の最終金曜日の29日はほぼ満席だった。けれど、取材した6月2日は5件しか予約が入っていなかった。

「うちは元々、会食客と自腹客が半々でした。会社が会食禁止を解除し、経費を使えるようにならないと以前の売上には戻らないと思っています。7月から会食を解禁する会社が多いようですが、6月はまだ厳しいでしょう。でも、第2波が来なければ、9月にはある程度コロナ前の売上に戻ると思います」

『The Burn』特製ステーキサンド

今後、飲食業界はどうなるか。米澤シェフの私見を聞いた。

「緊急事態宣言が解除されたら、すぐに食べに行きたいと思っていた店があったと思います。プライオリティが高い知り合いの店や、お金を使いたい順番から先に足を運んだはずです。反対にプライオリティが低い店には、人が戻りづらいのではないでしょうか」

たとえば、会社帰りにとりあえず飲みに行ったり、“なんとなく”では外食しなくなるのではないか。来店目的が明確な店に人が集まるというのだ。

「秋にリストラがあると言われています。“なんとなく”では飲みに行かず、家飲みに走る人が今後増えると思います。軽く飲みに行くとしても、ある程度意味のあるものを食べに行くようになるのではないでしょうか」

『The Burn』が客に選ばれる理由もあるはずだ。ステーキが目当てなのか、野菜料理を食べたいのか。

「うちを選んでくれた理由を察知し、それをしっかりと提供していこうと思っています。お客様との関係性を築くことが重要だとホールには伝えてあります」

意味のあるものに金を使おうと思うようになると米澤シェフは予測する。

「それは食材に関しても同じ傾向が出てくると思います。安かろう悪かろうではなく、きちんとしたものを、きちんとした形で食べなければならないことに今回のコロナで多くの人が気づいたのではないでしょうか。アフターコロナでは、意味のあることをやっていこうと考えています」

6月8日、さっそくヴィーガンコースを始めるとSNSで宣言した。数あるレストランの中から『The Burn』を選んでもらう理由のひとつとしてヴィーガンコースを選択したのだ。今後どんな意味のあることをしてくれるのか。米澤シェフから目が離せない。

『The Burn』の外観

『The Burn』
住所/東京都港区北青山1-2-3 青山ビルヂングB1
電話番号/03-6812-9390
営業時間/11:30~15:00(L.O.14:00)、17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日/日曜・祝日
席数/70席だが、30席ほどで営業中

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。