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時短要請に応じる飲食店のリアルな声。「時短より分散利用を」「生産者にも支援を」

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写真はイメージ。画像素材:PIXTA

2月7日までとされていた緊急事態宣言が延長される見通しだ。今年1月初旬に発令された2回目の緊急事態宣言だが、その基本的対処方針として飲食店の営業時間短縮が盛り込まれている。対象の地域には営業時間は20時まで、酒類の提供は11~19時までとする時短要請が出されており、ほとんどの飲食店がこれに従っている。

東京都の場合、時短要請に応じた事業者に対し、1店舗につき1日6万円の協力金を支給している。以前の時短協力金の日額上限は2万円で、2020年12月の時短要請時に1日4万円にアップ。今回の緊急事態宣言では1日6万円に増額され、サポートが手厚くなったようにも感じる。

一方で総務省の調査によると、近年は430万人前後で推移してきた飲食店の従事者数は2020年10月に398万人と急減。また、帝国データバンクによると、2020年に負債1,000万円以上で法的整理をした飲食業は780社と過去最多を記録している。

2度目となる緊急事態宣言下、街の飲食店オーナーたちは今回の政府の対応をどう感じているのだろうか。話を伺っていくとコロナ禍における政府の支援や対策の課題点、コロナ禍で飲食業を続けるための試行錯誤が見えてきた。

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協力金は一律の金額ではなく、店舗規模に応じて支給を

「もちろん売上は落ちていますが、前回と比べ協力金が1店舗あたり1日6万円に増額されたのはありがたいですね」。そう語るのは、三軒茶屋でイタリア料理店『フェリチェッラ』を営むオーナーシェフの榎本大介氏。今回の緊急事態宣言中は休業せず、予約があった時だけ時短要請に応じた形で営業をしながら、お取り寄せ商品の通信販売を行っている。イートインでの営業もなるべく食材のロスを出さないよう、前日までの予約受付とし、メニューも絞りコスト削減に勤しむ。

席数が少なく一人で店を切り盛りしているような固定費の安い飲食店の場合は、十分すぎる協力金だと榎本氏。一方、「固定費が高く、従業員も多く抱えている飲食店の場合は不十分だと思います」と今回の協力金支給ルールに疑問を呈す。

総務省の2016年経済センサス調査をもとに日本経済新聞が推計したデータによると、家族経営のような年間収入300万円未満の事業者は店舗あたりのコストが月13.5万円、年間収入300万~1,000万円では月37.7万円だという。こうした中小事業者であれば今回の協力金で十分にコストをまかなうことができる。一方、売上高が3,000万~1億円の事業者の場合、月のコストは297万円に跳ね上がり協力金ではまかないきれない。中小ほど協力金の恩恵が大きいが、コストが莫大な大企業ほど負担を強いられている現状がある。

加えて榎本氏は「今は飲食業界だけが支援を受けていますが、飲食に限らず収入が減少して生活が苦しい人はほかにもたくさんいます」と言い、全国民への特別定額給付金の再給付が必要だと話す。

写真はイメージ。画像素材:PIXTA

飲食店だけでなく、生産者への支援も必要

同じく今回の協力金の支給金額を評価しつつも、一律金額での支給は不平等ではないかと投げかけるのは、三軒茶屋で繁盛店を複数営む2TAPS代表の河内亮氏。「周りを見ていると複数店舗の経営者や、家賃などの固定費が高い飲食店が苦労しています。飲食店と一言にいっても規模も営業スタイルも千差万別。家賃もしくは平時の売上の一定割合を支給するなど、店舗規模に配慮した形で協力金を支給した方がいいように思います」と指摘する。

現在、河内氏が営む『三茶呑場マルコ』と立ち飲み酒場『コマル』はテイクアウトを行いつつイートインは20時までの時短で営業。『食堂かど。』はイートインの営業はせずテイクアウトのみ、そしてカウンターと立ち飲みからなる酒場『ニューマルコ』は休業し、テイクアウトメニューの調理、開発などセントラルキッチンとして活用している。繁盛店であれば時短しなければ協力金以上に売上を確保できるように思えるが、「営業することによって得られる目の前の利益よりも、後々感染が広がった時のリスクの方が高いと感じたほか、店舗に立つスタッフの健康も心配だったので」と世の中に対する影響やスタッフの健康を重視した。

『食堂かど。』をはじめとしてテイクアウトメニューは鯖味噌、西京焼き、豚の角煮など手の込んだ惣菜メニューを展開。前回の緊急事態宣言時にスーパーなどの惣菜では物足りないという近隣住民の声が多かったことから、原価もしっかりとかけたクオリティーの高いテイクアウト商品を揃えた。今後は真空パックでの料理販売も予定している。

テイクアウトの売れ行きは好調にも思えるが、利益率の高い酒類販売が見込めない今、協力金があっても経営状態は厳しいという。それでも営業を続ける理由には「生産者、特に鮮度が命となる魚屋から悲鳴を聞く。自分たちだけよければいいというのではなく、できる限り三方良しの営業を続けたいと思っています」とサプライチェーンへの配慮を示す。

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。