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スシロー、吉野家への「迷惑行為」に断固たる措置の意義。外食テロの抑止力なるか

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画像素材:PIXTA

「犯罪は割に合わないな」という思い

仮に4年前、吉野家が2019年吉野家事件で刑事、民事の双方で断固たる措置をとっていたら、スシロー事件も2023年吉野家事件も発生しなかったかもしれない。

2019年吉野家事件は大学生の悪ふざけの例と言えるが、それが軽犯罪法に触れ、さらに損害賠償請求をかけられ支払いを命じられていたら、軽いとはいえ刑事罰を受け大学から処分を受けていたであろうし、学生には軽くない負担の損害賠償が科せられた可能性はある。その事実が当該学生だけでなく、同種の事件を起こしかねない予備軍に対して「犯罪は割に合わないな」という思いを抱かせることになり、事件の再発を防止する力になる。このような効果を一般に抑止力と呼ぶ。吉野家がこの抑止力を考えて行動していれば、その後の展開は変わってきたかもしれない。

スシローの高校生も、2023年吉野家事件の若者も、自らの行為により刑法犯となり得るか、それとも軽犯罪法違反にとどまるかなど知る由もないと思われる。そうであるなら、動画をバズらせるためにより過激な行為に走ったという推理は成り立つ。

以上の点を考えれば、各企業が厳しい姿勢で事件に臨んでいることは理解できると思う。

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識者はどこまで考えたのか

スシロー事件で少年を庇う、企業の厳しい対応に反対する識者が上記のようなことまで考えて情報発信したとは思えない。問題の行為が当該飲食店のシステムにとって最大の弱点を突くもので、経営の根幹を揺るがしかねないことを考慮できていないから、「ゲンコツ3発と皿磨き1週間」で許してやれという実態を無視した解決法を提案できるのであろう。

仮に刑事事件とすることが少年の未来を不当に貶めるというのであれば、それは少年法の趣旨を理解していないと言うしかない。少年法1条は「この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と教育主義を掲げており、刑事訴訟法1条が「…事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする」のとは対照的である。

これは可塑性のある若者の未来を考え、少年の更生を第一に考えていることに由来する。「少年の未来を考える」などと理由にならない理由をつけて刑事手続に乗せなければ、犯罪にはリスクが伴わないという誤ったメッセージとなりかねない。その結果、反社会的な行為をエスカレートさせていくことが考えられ、少年の未来を絶望的なものとしてしまう。そうならないように刑事責任を追及し、少年法の規律の下で更生させるのである。

今回、スシローや吉野家などの大手企業が断固とした措置をとっていることに違和感を覚える人もいるかもしれない。しかし、企業からすれば生き残りのためには「子供の悪ふざけ」で済ませられない事情があること、そして、それが企業の持つ公共性から社会で果たすべき責務の一種であることは、利用者である我々は理解しなければならないと思う。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/