衛生環境の“見える化”で「選ばれる飲食店」に。ニューノーマル時代の衛生管理セミナーレポート
2月24日、日立製作所、HACCPジャパン、飲食店ドットコム共催によるオンライン講座「ニューノーマル時代の衛生管理セミナー ~お客様から選ばれるお店づくり~」が開催された。株式会社HACCPジャパン・代表取締役の平嶋琢巳氏、株式会社日立製作所・マネージドサービス事業部の小野寺一宏氏、平田浩一氏が登壇し、飲食店の衛生管理に対する努力を、集客につなげるためのノウハウを解説した。
セミナー当日の様子は、本記事の末尾に記載した動画リンクからも確認できるため、本記事と併せてご覧いただきたい。
飲食店の衛生管理は「感染対策」への配慮も求められる時代へ
はじめに、飲食店ドットコムを運営する当社シンクロ・フードの樋口より、飲食店の衛生管理を取り巻く環境について話があった。
ここ数年、食品衛生法の改正や新型コロナウイルスの感染拡大などにより、飲食店に求められる衛生管理の状況は大きく変化している。5月には新型コロナウイルスの感染症法上の分類が5類に引き下げられるが、飲食店ドットコムが行ったアンケートによると、現在感染対策を行っている飲食店のうち約40%が、5類移行後も感染対策を継続する考えを示している。また、43%の飲食店は「迷っており、様子を見ながら判断する」と回答。しばらくは感染対策を継続するという回答が多数を占めた。
5類移行に先駆けマスク着用も任意となり、世相はアフターコロナに向けて動き出しているが、いまだ感染への不安を抱く人も少なくはない。2023年の飲食店は「安全安心な料理の提供」だけでなく、「感染対策への配慮」も引き続き継続すべきだという。
インバウンド客に有利に働く、HACCPに沿った衛生管理の可視化
第1部では、科学的な根拠に基づいた衛生改善指導を行っているHACCPジャパンの平嶋氏が登壇。食品衛生法改正後に飲食店に求められている衛生管理や、消費者に対して衛生管理状況を発信する意義について解説した。
まず話があったのが、衛生管理手法である「HACCP(ハサップ)」の義務化についてだ。2018年6月に食品衛生法が改正されたことで、HACCPに沿った衛生管理が制度化。飲食店は、衛生管理計画の策定や実施、記録・管理といった、“衛生管理の見える化”を行わなければならず、従わない場合は罰則もある。
さらに最近は、食中毒を発生させてしまったり、衛生管理を軽視している飲食店がSNSで拡散される事例もあり、ますます衛生管理の重要性が高まっていると言える。一方で、HACCPへの対応は手間がかかるため、平嶋氏から、楽天コミュニケーションズのHACCP対応アプリ「あんしんHACCP」の利用が提案された。
同アプリでは、行政と連携し認証ステッカーを配布するなど、店舗の食品衛生管理状況を消費者に認知してもらう取り組みも実施。認証を受けた店舗のPRを推進している。
こうした消費者に対する衛生管理状況の発信について平嶋氏は、「インバウンド客へのPRにもつながる」と話す。アメリカをはじめとする世界の国では、店頭に外部機関による衛生評価が表示されており、消費者はその評価を基に店選びをしている。そのため、日本の飲食店も衛生評価を店頭に掲示することで、インバウンド需要の獲得に有利に働くという。
消費者の8割超が、飲食店の感染対策状況を気にしている
続く第2部では、衛生管理可視化サービス「T*Plats(ティープラッツ)」の開発を行う、日立製作所の小野寺氏と平田氏から、店舗の衛生管理状況を外部発信することのメリットについて、導入事例を踏まえた解説があった。
まず小野寺氏より、ニューノーマル時代に考えるべき衛生管理のポイントについて、いくつかのデータが示された。現在、新型コロナの感染者数は減少傾向にあり、またマスク着用ルールも緩和されるなど、社会は少しずつアフターコロナに向けて動き始めている。一方、長きに渡るコロナ禍の影響で、いまだ感染への不安が拭えない消費者が多いのも事実だ。
日立製作所が2022年に実施した「飲食店や施設の利用に関する調査アンケート」によると、約85%もの消費者がお店や施設の感染対策状況を気にしているという。
さらに、感染対策状況を気にしている場所へ訪れたときに、お店選びを失敗したと感じたことがある理由の第1位は、「思っていたより混雑していた(53.7%)」との回答。次いで、「思っていたより騒がしかった(25.3%)」、「店内の空気がこもっていた(17.2%)」が続くことから、小野寺氏は「3密に関わるポイントがお店選びで重視されている」と話す。
続いて紹介された、お店や施設を利用する際に何を重視しているかという質問でも、「感染対策の有無」が1位となっており、消費者の感染対策への関心の高さがうかがえる。
また、多くの消費者が安心してお店や施設を利用できる感染対策の種類として「室内換気」を選んでいる一方、約5割の人が「室内換気」が適切に行われているか分からないと回答した。
こうしたデータから小野寺氏は、「室内換気が一番のポイントであり、それを見える化していく。消費者に見えるようにすること自体が非常にインパクトのあることだと思っています」と、室内換気の状況を店頭掲示やホームページ上で“見える化”することの重要性を語った。
また、小野寺氏は情報の発信が消費者の感染症に対する不安軽減につながると話す。
「衛生管理状況の可視化は、店舗のクリアランスや透明性といった信頼感の発信につながり、消費者や従業員の感染症への不安を軽減できる大きなメリットになります」(小野寺氏)
「T*Plats」で“衛生管理”の状況を可視化できる
第2部の後半では、平田氏より、飲食店の衛生管理状況の見える化に役立つサービスとして、「T*Plats」が紹介された。
T*Platsは、日立製作所とイーヒルズが共同で開発した衛生管理可視化サービス。店舗に設置したIoTセンサーで計測したCO2濃度や騒音状況などの衛生管理・環境情報を、インターネットを通じてリアルタイムに公開できるという。セミナーでは、実際にT*Plats上で公開できる以下4つの衛生管理情報について詳しい説明があった。
1、IoTセンサーでの情報開示有無・第三者チェックの実施有無
2、T*Plats指数(衛生対策状況をパーセンテージで表示)
3、お店の衛生対策状況(換気、店舗消毒、お客様の安全、テーブル間距離、従業員の安全衛生管理、トイレ消毒の状況を表示)
4、IoTセンサー情報(CO2濃度、温度、湿度、騒音、混雑指数の表示)
上の図を見ても分かる通り、T*Plats上では、CO2濃度や温度、湿度といった見た目だけでは分かりづらい室内の換気度合いに関わる数値も分かりやすくグラフ化し表示されている。こうした衛生管理情報は、T*Platsの公式ホームページだけでなく、自店舗のホームページや店頭のサイネージなどで表示することも可能だとし、平田氏は「利用者側はいつでも情報を見ることができる」と話した。
「自分の店舗のホームページ上にも同様の情報を出すことで、安全安心という今まで見せられなかった新たな価値というものを提示できます。また、サイネージ等にも表示する機能を設けておりますので、実際にリアル店舗に来られた方にも“今使っている店舗が安全です”ということをアピールできます」(平田氏)
衛生管理状況の公開が、地域全体の活性化につながる
では、T*Platsを利用した衛生管理の可視化がどのように集客につながってくるのだろうか。
今回、事例として新丸の内ビルで蒸し料理を提供している『mus mus(ムスムス)』が紹介された。同店では、自店舗のホームページやSNSを通じて、T*Platsの衛生情報を発信しているという。
気になる集客効果だが、セミナー内で公開された動画で、店長の中嶋 望氏は「ホームページ上でリアルタイムに今の環境を見られることで、安心してお食事していただける」と話し、集客への寄与についても肯定していた。
また平田氏は、T*Platsを利用することは、地域の活性化にもつながると話す。
「例えば、ビル全体、街全体に広がることで地域全体が活性化していくのではないかと我々は考えています。安心して使える街やビルであると理解していただくことで、最終的に集客アップにつながると考えています」(平田氏)
さらにT*Platsでは、インスタグラム等のSNSを利用し、集客につなげる活動も行っているという。T*Platsの公式SNSで導入店の情報を発信することで、認知度の向上や、衛生管理への関心が高いユーザーへの来客につなげることも期待できるとし、平田氏は「そういった方々の来客につながるよう情報発信を今後もしていきたい」と語っていた。
世相はアフターコロナに向かっているが、見えないウイルスへの不安を抱く人は多く、依然として消費者の衛生管理に対する関心は高いといえる。こうしたなか、換気状況をはじめとする衛生管理情報の見える化を行うことは、集客面でも大きな意味を持つことになるだろう。ニューノーマル時代となった今、飲食店の衛生管理も、時代に沿った形に変化してみてはいかがだろうか。
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