独学で三つ星に! ニコ・ロミート氏が掲げる8つの料理哲学。『ブルガリ』とコラボを続ける理由も
独学で編み出した8つの“料理哲学”
ニコさんは独学から自身で編み出した“料理哲学”として次の8つを掲げている。
「ピュアである」「深く掘り下げる」「本質を突き詰める」「野菜を中心に」「軽やかで」「土地の食を大切に」「分析に基づいたクリエイティビティを発揮」そして「健康的な料理であること」。
その哲学と日本の食文化には共通点があると言う。
「日本文化への理解を深めるうちに、季節や自然を慈しみ素材の味を引き出すという食材への向き合い方や、軽やかでヘルシーな食生活、伝統と歴史を大切にする精神性など、私が『レアーレ』でやってきたことと日本の食との共通点をたくさん見つけることができました。
私は日本の料理人から日本料理の技術を学んだ経験はありませんが、料理法でもユニークな共通点がありました。『レアーレ』の料理のひとつに『ビーツの蒸し焼き』があります。これは旬を迎えて味の深みを増したビーツを蒸し焼きにしてうま味を凝縮し、バルサミコ酢と砂糖を煮詰めたソースを何度も重ね塗りしながら焼き上げるひと皿です。
日本料理に詳しいお客様によると、この調理法や味の構成は、日本で愛されている『うなぎの蒲焼き』に似ているとか。ビーツは野菜、うなぎは川魚と素材は異なりますが、素材の持ち味を徹底的に研究して、そのおいしさをシンプルに引き出す調理法が西洋・東洋を問わず結果的に同じ文脈を持つのは、とても興味深いことです」
季節を大切にして、日々様子を変える食材に深く向き合い、包丁の入れ方から火入れまで徹底的に研究してひとつの型をつくりあげ、自然と健康がリンクした食を提供するというニコさんの哲学。それが彼の考えるイタリア料理の本質であり、シンパシーを感じる日本人も多いだろう。
一方で、素材の風味が異なることで、アブルッツォ州で確立した“ニコさんが構築する本物のイタリアの味”を東京で再現する難しさもあるのではないか。たとえばヨーロッパから来日したシェフは、日本の野菜はみずみずしくて甘みがありサラダなど生食にはぴったりだけれど、ヨーロッパの野菜と比較すると個性があまり強くないので、日本の素材でヨーロッパの味を再現するのは調整が必要だとよく口にする。
そう問うと、日々日本の素材と向き合っているマウロさんがこう答えてくれた。
「アブルッツォ州と日本は水も土壌も違うので、同じ品種の野菜でも風味やテクスチャが異なるのは当然のこと。それがテロワールですので、野菜についてはあまり苦労しませんでした。強いて言えばサンマルツァーノでしょうか。加熱して煮込むと酸味とうま味が際立つこのトマトはイタリア産のものを使ってこその味わいで、日本でこれを再現するには少し工夫が必要です。しかし野菜以上に私が土地の持ち味の差異を感じたのは魚です。海域も、水温も、森も川も違うと、その川が流れ込む海で餌を食べて育つ魚の味は大きく変化します。自然の生態系が循環してその土地の味をつくるのです」
ニコさんはこう補足する。
「テロワールについて付け加えさせてください。私が『ブルガリ ホテルズ & リゾーツ』で展開している『イル・リストランテ ニコ・ロミート』は、全店で共通して“私が考えるイタリアの伝統を踏まえた真に豊かな本物の料理を提供すること”をコンセプトとしています。各店舗を率いるシェフはみな私の元で研鑽を積み、私の哲学を深く理解して、それを表現する高い技術を持っています。それを踏まえたうえで、その土地の食材とシェフの個性がかけ合わされ、その地ならではの味覚が生まれます。共通した世界観を構築しながらも、ひとつも“コピー”のような料理はないのです」
