物価高騰も値上げなし! 駒沢大学の繁盛居酒屋『おさだ』の“俺流”経営術
売上の効率を高める3つのスキーム
長田さんが実施している具体的な施策は、主に下記の3つ。
1、割り切ってコスパの悪い素材を使わない
2、端材を上手に使いフードロスをなくす
3、タイパを良くするメニュー構成&仕込み
「1」に関しては、刺身が代表例。「元々は種類を増やして、いろいろなメニューをやっている時期もあったんですけど、仕入れ値が高いからやめて、数を減らしました」と長田氏。キャベツも然り。「れんこんとブロッコリーのタルタルサラダ」(500円)の原型は、「キャベツとカニカマのマヨサラダ」という同じような味付けのメニューだった。それを値が高騰したキャベツを外し、代わりに旬の安いレンコンを起用した。
「このメニューを作るから、これを買わなくちゃいけないではなく、値段が高かったからやめようと割り切っていますね。近所のスーパーで『今日これが安いから』とその場で見て買って、どういう料理を作ろうか、素材中心にメニュー構成を考えます」
メニュー開発においても、このテクニックを活用し、旬の素材を取り入れる。たとえば「麻婆なす」(600円)は、夏になるとナスからトマトに切り替えて「麻婆とまと」として再販。料理のベースを変えず具材だけを変更し、常連客に新しいメニューとして捉えてもらえるようなアイテムを、数多く携えている。
「2」のフードロスの問題は、安定した集客に助けられている。50種類のメニューのほとんどが毎日、売り切れるそう。それでも余る食材は、賄い飯として使う。加えて、お刺身の切って残った端の部分などは、客を満足させる別の形で提供する。
それを象徴するメニューが、定番の「カンパチとサーモンの胡麻あえ」(850円)。ここにタコやカツオといった余った切れ端を、まとめて投入するのだ。客側は、想定外の刺身の存在がプチサプライズに。店側も「優秀なメニューです。おかげで、刺身のロスは全くなくなりました」と、長田氏は胸を張る。
「3」のタイパは、客の回転率に直結する。手狭な厨房に立つのは、長田氏のみ。ワンオペで50種のメニューを作って回すのは、繁盛店ならなおさら負担が大きい。しかも混雑する週末、祝日は完全2時間制を敷く。そこで注文が集中して配膳が滞ってしまったら、2時間が過ぎても「帰ってくれませんか」と客にお願いできない。また営業中、トラブルのもとになりかねない会計と電話の応対も、店主自ら極力こなす。それらの接客業務にも余裕をもって対応できるよう、事前の対策を入念に行う。
「うちはガス台が1つ。3口ありますが、1口はお通しで出す茶碗蒸し専用です。揚げ物と焼き物用が1口ずつなので、作る量に限界があります。スピードメニューは最低限5、6個を持っておきたいところ。揚げ物メニュー(約5種)はこれ以上増やさず、同じ数の新旧のメニューを入れ替えます。焼き物は、自分が好きな餃子や生姜焼きも置きたかったんですけど、調理に時間がかかり止まってしまうので外しました」
料理の仕込みも基本、営業前に全部終わらせておく。2度揚げして仕上げる唐揚げは事前に一度揚げておき、オーダー後に再びフライヤーで熱すれば、タイパと旨さが両立する。刺身の柵も仕込みの段階で切り終え、注文後に皿に盛るだけで済む。
「僕にとっては注文が入ってから刺身を切るのが、一番ではないということ。切る・切らないのメリットを、てんびんに掛けたときに、わざわざ予約して来てくださるお客さんを待たせない方が重要だと思うんです。だから、すべて準備しておきます」
円滑なオペレーションは、ホールスタッフの力も借りなければ成立しない。幸いにもアルバイトには、長田氏が独立前の3年半、店長を務めた居酒屋『いりこ家』(学芸大学)時代から、ずっと手伝ってくれた仲間がいる。彼らを含め、雇用するアルバイトは7人、営業中は長田氏と2人のバイトで回す。
「『いりこ家』時代から働く同じ子たちが中心なので、2時間制の場合の店の回し方などを分かった上での動きをしてくれる。僕のやりたいことを分かってくれています」





