『uguisu/organ』紺野真さんが語る「不均一の面白さと、不便の贅沢」【私の偏愛】
時間をかけるからこそ、見えてくるもの・心に訴えかけるものがある
キャンプでは、「儀式」として必ず行うことがあるという紺野さん。一つ目は、お気に入りのランタンと釣り道具を選んで持っていくこと。二つ目は、自分で枝や薪を削ってフェザースティック(焚き付け材)を作り、火打ち石で火を起こすこと。通常、今どきはバーナーを使えば簡単に火は起こせるというが、愛用するナイフを使う時間も一つの楽しみだそう。そして、起こした火で湯を沸かし、手動グラインダーでコーヒー豆を挽いて、ハンドドリップでコーヒーを淹れる。この一連のプロセスが心地よくて好きなのだとか。
「コーヒー1杯を淹れるまでに、かなりの時間がかかります。でも、その間にいろんな気付きがあるんです。何もかもが便利になり、手作業が省かれた現代の日常の中では、本来そこにあるべきプロセスがすっかり忘れ去られてしまっている。手間をかけることや原始的な方法に戻る瞬間は、あえて自分でつくらないとできないからこそ、そんな時間の使い方がすごく贅沢だと感じます」
どれほどテクノロジーが発達しようと、人は、時間をかけて生み出されたものに惹かれるのはなぜなのだろう。一つの炎しかり、例えば1950〜1970年代にかけて作られたヴィンテージギターの音などもそうだ。今、最新技術によってそれを“再現”しようとする流れが広まっているが、あくまでそれは“フェイク”に過ぎないと紺野さんは語る。
「当時の本物のヴィンテージギターの音と作られたそれっぽいもの、やっぱり何かが違うと多くの人が感じるから、私たちは本物に心を動かされ、トッププロの人たちはそれを求めて高い価値を付けるのではないでしょうか」
プリミティブとイノベーティブのバランスを探る作業の繰り返し
一方で、紺野さんは決して最先端のものを否定するわけではなく、むしろ積極的に興味のアンテナを張る。ランタンはもとより、キャンプグッズ、本業である食の調理法やトレンドにおいても、何十年と常に最新を追い続け、学び、吸収してきた。「当たり前だけど便利だし、人が研究やクリエイティブを積み重ねてきたことで研ぎ澄まされたものや、確立された新しい技術にはすばらしいものもたくさんある」と、熱いリスペクトを贈る。
紺野さんが大切にするのは、プリミティブ(原子的)なものとイノベーティブなものとのバランスだ。今、料理の世界では薪料理を筆頭にプリミティブな調理法に回帰する動きが加速しているが、それでもなお、料理人の高度な技術力や複雑な工程を経ることでしか出合えないおいしさの価値も普遍的だと紺野さんは考える。
「だからこそ店では、一皿にどちらの要素も取り入れることを意識しています。黄金比やセオリーみたいなものはありません。探り探り、今も本当に感覚的です。でも、単純に好きで楽しいんですよね。キャンプグッズも料理もそれ以外においても、原始的で時間や手間が必要なことも、最先端のテクノロジーやトレンドを追いかけることも。古くて扱いにくい道具を手懐けていく感覚も楽しいし、画期的な最新技術やアイデアに触れることもすごく刺激的で勉強になる。『バランス』の落としどころの絶対的な答えは見つかっていませんが、時代やトレンド、自分自身のその時のマインドによっても変化する、流動的なものなのかもしれません」






