超予約困難店、西麻布『蒼』のすごさの正体。「高鮮度料理」はどうやって生まれたのか?
名もなきビストロとカリスマ生産者との交流
峯村シェフは、もともとバーテンダー志望だった。うまい酒の肴を作る必要を感じ、東京・恵比寿のフランス料理店『サントゥール』の水原弘史シェフに弟子入り。その後、24歳で新宿・若松河田にあるビストロのオーナーシェフとなる。
ランチは900円から、夜は飲み放題付きのパーティープラン。若松河田という町の需要に合わせた店づくりが必須だった。「おいしさで勝負する」との信念で日々厨房に立っていたが、店の存在が世間には広がらない。「自分の実力がないせいなのか?」と自問自答する日々だった。
ビストロをオープンして6年ほど経ったころ、築地で評判だった愛媛の「伝説の漁師」藤本純一氏による神経〆を知る。著名な料理人たち誰もが、鮮度のよさに太鼓判を押すエキスパートだ。その藤本氏の魚を使いたいと、いきなり電話をかけたものの、「誰の紹介でもない、 どこの料理人かわからない、お前には魚を卸せない」とあっさり切られた。「怖いもの知らずでしたね」と振り返る峯村シェフだが、諦めることなく、果敢にも自分の作った惣菜を真空パックにして藤村氏に送り続け、愛媛に通った。そんなある日、峯村シェフの店に藤村氏が現れたのだ。
「カジュアルビストロがこの金額でこんなに旨い料理を出している。お前はダイヤの原石だ」と評価し、魚を卸してくれるようになった。それが縁で、トップクラスの生産者との繋がりができた。
「藤本さんの魚を食べることができる。なぜ、無名のビストロにこんなクオリティの魚が入っているんだ?」
たちまち噂が広がり、飲食関係者がこぞって訪れるようになった。
食材の香りや味わいを余すとこなく伝える「高鮮度料理」
クオリティの高い素材を使い始めるうちに、鮮度のいい食材だけを厳選し、調理し立ての料理が出せるカウンターの店をやりたい、という願望が募っていった。縁があってたどり着いた西麻布に、2020年1月、『蒼 』をオープン。オーナーシェフである峯村シェフならではの哲学が詰まった店は、たちまち業界や食通たちの話題となった。
こぢんまりした店だが、サービスはグランメゾンを目指す。カウンター内に2名配置、どんな質問にも答えることができ、細かい気遣いを忘れない。また、ワインのペアリングは、利益度外視の充実のラインを取り揃えている。
オープン以来、イノベーティブ・フュージョンと呼ばれてきた峯村シェフの料理だが、香りづけのハーブや酒はほとんど使用しない。素材そのものの味や匂いを体感してもらいたいからだ。「フレンチと和の融合」という印象を払拭すべく、「高鮮度料理」という新たなジャンルを考案した。
「高鮮度料理」は、適切に処理された食材の香りや味わいを余すとこなく伝える。そのために必要なのは、高い技術の漁、仕立て、神経〆、切れ味。つまり、漁師、魚屋、研師、料理人のコラボレーションが重要になる。
それを根幹から支えているものとは、一番は食材、その次は、食材を活かす調理方法や器具。峯村シェフは、一営業終わるごとに包丁を使い替え、少なくとも月に100本は使うという。セミナーに参加して知り合った、三重県松阪市にある月山義高刃物店3代目の包丁研ぎ師、藤原将志氏の教えを乞い、野菜専用、魚専用、出刃包丁と何本も使い分ける。雑味が出ないのはもちろん、切れ味により甘さや深みが違う。その微妙な差異を日夜研究している。




