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ノロウイルスの食中毒で訴訟、ホテル側の言い分と損害賠償金の内訳

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Photo by iStock.com/SIphotography

飲食店はどれだけ注意しても、提供した食事が原因で客が食中毒に罹患するということは起こり得る。昨今話題のノロウイルスによる食中毒で損害賠償請求された裁判例(東京地裁2013年1月28日判決)から、実際にどのような主張がされ、どのような結末となったのかを見ていきたい。

ビュッフェの昼食でノロウイルス、37人に食中毒の症状

裁判所の認定した事実等によると2012年2月19日、都内のYホテルのレストランMのビュッフェメニューで昼食をとった37人から食中毒の症状が出た。保健所の調査から原因はノロウイルスと特定されMは29日から3月2日まで3日間の営業停止処分を命じられた。

Mで食事をしたXは20日の昼頃に腹部が重く感じられるようになり、少なくとも3回嘔吐。さらに下痢になり倦怠感と脱力感で寝込んでしまった。XはYホテルと電話で話したが、Xの主張によるとYホテルが「食事代2,000円の返金とお詫び1万円で了承するよう求めるという誠意のない対応」だったために、5万円の損害賠償を求め提訴した。

Photo by iStock.com/Loco3

下痢で余分に支出したトイレットペーパー代も払え!?

Xの主張する実費の損害は以下の5点。
(1)保健所への検査、書類受け取りのための交通費 1,740円
(2)Yホテルとの電話代 936円
(3)廃棄せざるをえなくなった食料の代金 3,000円
(4)下痢により余分に支出したトイレットペーパーや水道代 300円
(5)トイレの消毒費用 8,000円

実費損害の合計は13,976円で、これに嘔吐や下痢等になったことの損害を加え合計5万円という請求。法的には債務不履行(民法415条)または不法行為(同709条)に基づく損害賠償請求で、YホテルのXに対する債務とは「安全な料理を提供すること」である。

Yホテルの反論「責任なし」

一方、Yホテルは「全社的に適用される食品衛生管理マニュアルを定めて厳格に履行し、衛生管理は万全だった。食中毒は保健所の調査でも直接の発生原因が特定されていない。ノロウイルスは空気感染もするから、どんなに衛生管理を万全にしても食中毒の発生を完全には防止できない」と主張した。

債務不履行による損害賠償請求に対しては、債務者(本件ではYホテル)は債務不履行が自己の責めに帰すべき事由に基づかないことを証明すれば勝訴できる。そのためYホテルはノロウイルスの感染を防ぐことは完全にできるものではなく、万全の対策を講じていた自分たちは感染の責任はないと抗弁した。

その上で、Xの実費請求は(1)から(4)は食中毒になったことによる損害であることを認めたが、(5)はXが消毒を実施していないと否認。また食中毒と(1)から(4)の実費損害の因果関係を認めても、ノロウイルス感染は自己の責めに帰すべき事由に基づかないと主張しているから、損害賠償請求には応じる義務はないということになる。

客の対応を批判?

また、Yホテルは反論の中でXの態度を問題視し「本件訴訟の提起に至ったのは、社会的に極めて不相当な内容の民事上の要求を行った原告(X)の交渉態度による」と指摘した。「不相当」の具体的内容は明らかにされていないが、訴訟の本質と関係ないと思われるやりとりが行われたということは相当程度の感情的な対立があったのかもしれない。

Photo by iStock.com/AndreyPopov

東京地裁はYホテルの責任認める

こうした両者の主張に対し、裁判所はXの一部勝訴とした。Yホテルの「自己の責めに帰すべき事由に基づかない」という主張は、Mの調理担当ら4人からノロウイルスが検出されたことを理由に退けた。可能な措置をいずれも講じていれば4人もの人間からノロウイルスは検出されないはずという考えが基礎にあるようだ。

こうしてYホテルの債務不履行責任を認定し実費損害(1)から(4)の部分の損害賠償請求を認めた。(5)は「業者に委託してトイレの消毒を行わせ、その費用として8,000円を支払ったことを認めるに足りる証拠はない」と退けている。

実費損害が(5)を除く5,976円で、慰謝料を2万円として25,976円の限度でXの請求が認められたのである。

裁判の教訓、提訴前に解決できなかったか

Yホテルとしては5万円程度の請求であれば訴訟に持ち込まれる前に訴訟外で解決したかった案件であろう。交渉が難しい相手だったのかもしれないが、訴訟になりコストを負うことになったのも事実である。ただしコストをかけてでも今後のために「不相当な内容の民事上の要求を行なった」者には安易に妥協することなく、司法の判断を仰ぐべきという考えであれば、それはそれで経営戦略上、一定の合理性は感じられる。

それからXは支出したことを証明できないトイレの消毒費用を請求している点に注目したい。損害を証明する資料なしに損害賠償請求をしてくることは、社会通念上あり得ないと思われるのだが、そのあり得ないことが実際に行われた。このような請求がされる時は、こうしたことも起こり得ることを飲食店関係者は頭に入れておいた方がいいだろう。

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松田 隆

About 松田 隆

フリーライター。スポーツ新聞社に29年余勤務し、記者を長く務める。法律関係を中心に政治、社会の諸問題を扱い、飲食を含む文化、スポーツに関する執筆も行なっている。青山学院大学大学院法務研究科(法科大学院)卒業。