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ジビエを武器に繁盛店へ。狩猟から手掛ける『オリザ』に、リアルな「ジビエ事情」を聞いた

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『オリザ』の人気メニュー「淡路産鹿肉のロティ 藁で炙って」

ここ数年で人気が高まってきた、野生の狩猟肉「ジビエ」。昔からぼたん鍋などの郷土料理や、高級フレンチの食材として愛されてきたが、最近はSNS映えする希少性や、栄養豊富でヘルシーな点にも注目が集まっている。勉強熱心な経営者やシェフの中には「ジビエを扱ってみたい」という方も増えているのではないだろうか。

ただ、ジビエは流通経路や調理法などがまだまだ知られておらず、知識を十分に得ないまま下手に手を出すと失敗することもある。そこでここでは、家族一丸となって淡路島産ジビエのブランド化に取り組む「淡路アグリファーム」の顧問であり、欧風バル『南あわじ美食農園 オリザ』の経営に携わる松岡隆文さんに、ジビエについて詳しく教えていただいたのでご紹介したい。

松岡さんの母で「淡路アグリファーム株式会社」の代表取締役を務める久美子さん

ジビエを扱うようになった経緯

「淡路アグリファーム」では、松岡さんのご両親が農業とジビエの処理を担当し、大阪市内に2店舗ある直営レストラン『南あわじ美食農園 オリザ』へ食材を送り届けている。まずはジビエ事業に携わるようになった経緯について伺った。

「もともと両親は大阪で食堂を営んでいました。母の故郷が淡路島でしたので、60歳過ぎてからお店を畳んで、Uターンしたんです。母は農家に育ったので、小さな頃から玉ねぎの収穫を手伝うなど、ある程度の農業経験はありました。『せっかく祖父が耕してきた畑を、放置するのは忍びない。なんとか先祖伝来のものを受け継ぎたい』ということで、淡路島に戻って『淡路アグリファーム』を立ち上げたのです」

最初は農業を営んでいたご両親が、ジビエを手がけるようになったきっかけはなんだろうか。

「母親の兄が、年間100頭ぐらい獲るような優秀なハンターだったんです。以前は、獲った動物は穴を掘って埋めていたらしいんですが、でも命を絶って山に捨てるのは忍びないという思いがあったようで。それで『最近のジビエブームとなんとか結び付けられないか』『南あわじ市にいるハンターたちを巻き込んで、獣害を抑えつつビジネスとしても成り立たせることが出来るんじゃないか』と考え、ジビエ事業を始めたんです。2年前のことです」

その後、農業倉庫を改装し、約55平方メートルのジビエ専用の食肉処理施設を設立したそうだ。資金調達はどのように行ったのだろうか。

「たとえばメガバンクは獣害被害対策に関しては積極的に融資しなさいっていう国からのお達しがあるんです。淡路島はメガバンクとしては三井住友銀行があるんですけど、行って話をしたら『協力します』ということでした。ところが、いざ融資の話を進めていくとすごく詳細な事業計画書を求められました。初めてやることなので、年間で何頭処理できるかもわからないじゃないですか。だから事業計画書は作れず、結局自己資金で始めました」

設立の初年度は『オリザ』だけにジビエを届けていたが、2年目からは実験的に卸しも始めたそうだ。また、メディアに取り上げられたことで、飲食店やホテルからの仕入れのリクエストも増えてきた。創業から間もないこともあり、規模の拡大を急がず、無理なくできる範囲を模索中だという。

Photo by iStock.com/PamelaPeters

鹿、猪の狩猟方法は?

狩猟する際は銃を使うのだろうか? 銃の打ちどころによっては、食肉として利用できないケースも聞くが……。

「ライフルを扱うにも免許が必要で、取得するまでにすごく時間がかかるんですよね。それに散弾銃だとどこに当たるかわからないので、鹿や猪の体から弾を取り除こうと思うと金属探知機を使わなければいけないんです。それだと初期投資がすごくかかります。なので、銃は使わずに、脚を引っかけるくくり罠や、檻で捕獲する箱罠を仕掛けています。動物が獲れたら無線が飛ぶ仕組みになっているので、30分ぐらいで現場に行けます。本来は首をライフルで一発で仕留めるのが一番美味しく食べられるんですけど、すぐに行って処理をすれば、自分たちが食べ比べてみても、遜色ないぐらいのレベルの味になります」

肉の処理は専任の担当がいるのだろうか?

「もともと親が飲食店をやっていたので、肉のさばき方は手慣れているんです。なので父親と母親とでやっていますね。今、年間で100体ぐらい扱っています。受け入れ頭数を増やすこともできるんですけど、両親の年齢的な部分もあるので(笑)」

狩猟のピークは冬の間だが、迅速に処理した鹿肉や猪肉を真空パックし、マイナス40℃まで急速冷凍することで、年間を通じて高品質のものを提供できるそうだ。

鹿肉と猪肉を使った「ジビエハンバーグ」

鹿肉はデリケート、温度に注意しないと肉質が固くなる

松岡さんによると、狩猟方法よりも大切なことは、店にジビエをちゃんと扱えるシェフがいることだという。『オリザ』では誰がメニューを開発しているのだろうか?

「『オリザ 中之島店』のシェフがもともとフレンチ出身の方で、彼が担当しています。ジビエって料理法にすごく左右されるんです。ある程度、精通されている方じゃないとなかなか難しいですね。タンパク質の凝固の問題もあって、火を通すときの温度にも気を遣いながら、慎重に調理する必要があります。最近はオイルバスって調理器具が流行っていますけど、そういう器具を用いながら、温度をコントロールしています。普通の肉と同じようにバーッと焼いたら、どうしても肉質が固くなってしまうんです。とくに鹿が顕著ですね」

猪肉と鹿肉の味わいとはどんなものだろう?

「猪は甘みのある感じで、味の濃い豚肉って感じですかね。鹿は牛肉の赤身の部分だけを調理したイメージ。脂分がほとんどないので、スポーツ選手などのしなやかな体を作る人にとっては最高の赤身肉です。北海道のエゾジカは個体が大きいのでクセが強く、本州鹿は個体が小さいのであっさりしています。鉄分が多いので、それをどう美味しさに変えるのかっていうところが面白いです。たとえば、藁であぶることで鹿の血生臭さが逆に旨みに変わります。そういうことがわかっているかどうかで、ジビエ料理の味は変わります」

『オリザ』でハンバーグを作る場合は、鹿肉だけだと赤身ばかりでつなぎにくく、食べ辛いため、猪肉を混ぜて提供しているという。ジビエを扱う場合は、その魅力を最大限に引き出すための勉強と工夫が欠かせないようだ。

『オリザ 中之島スピニング店』。ジビエ料理はヘルシーで女性客からも好評だ

飲食店で、定番メニューとしてジビエを扱うために必要なこと

ジビエを扱ってから売上は変わったのだろうか。

「売上は伸びましたね。鹿を食べたいっていう、女性を中心にね。あとは珍しさから、ジビエ特集でメディアにも取り上げられました。宣伝効果はありましたね」

ジビエはまだまだ「高級フレンチの食材」というイメージが強い。『オリザ』のような大衆向けの飲食店でジビエを扱う際のアドバイスを伺った。

「ジビエは、ある程度、料理人の腕が要求される食材です。誰が扱っても同じではなく、自分の腕が生かせるし、お店の差別化にもなるという意味で、飲食店のほうでもジビエを扱いたい気持ちが高まっているのを感じます。ただ、天然のものなので、冷凍せずに生のままで仕入れて常にメニューに入れることは難しいですね。ちゃんとした処理施設で、ジビエにあった冷凍技術を施してあれば、肉の質もあまり落ちません。定番でジビエをやりたいなら流通ルートをしっかり確保したうえで始めたほうがいいですね」

ジビエは一般的なスーパーでは扱っていないので、処理施設やネット通販などで流通ルートを確保することが大切だ。狩猟したときの処理がきちんとできていない肉は固かったり、臭みがあったりするので、履歴管理が行き届いた所を探すのがおすすめである。

淡路島の資源を活用した「ソーシャルグッド」なビジネスを目指す

松岡さんは、調理師免許を取得し、ファームの顧問として家業を支えているが、本業はIT企業の代表取締役である。異業種からこの分野への参入は大変だったのではないだろうか?

「大学院に行っているときに、『ソーシャルグッドなことをしましょう』『自分の経験を生かして世の中の役に立ちましょうと』ってさんざん言われたんです。そういう部分もあって始めたんですけど、実際にやると本当に大変ですね(笑)」

ソーシャルグッドとは、社会を良くする動きを促進することである。淡路島で廃棄されていた害獣や、衰退しつつある農業を通して、地域を活性化させようとする取り組みは、まさにソーシャルグッドな活動だ。松岡さんの手がけたホームページからは、ジビエを通して家族が一致団結している温かな雰囲気が伝わってくる。

『オリザ 中之島スピニング店』
住所/大阪府大阪市中央区北浜2-1-14 中之島スピニング1F
電話番号/06-6205-0101
営業時間/12:00~L.O.14:00(ランチ営業は土曜のみ)、17:30~L.O.22:00
定休日/日曜
席数/23席
http://restaurant-oryza.com/

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。