トランス脂肪酸の食品への使用は今後どうなる!? 飲食業界への影響は?
トランス脂肪酸の全廃がアメリカで決定
“狂った脂肪”という呼び名もあるほど、危ない存在として知られる「トランス脂肪酸」。ここ数年、あらゆるメディアでその危険性が叫ばれてきたが、今のところ日本で規制される動きはない。トランス脂肪酸を含む食品を口にするかどうかは、消費者の判断に委ねられている状態だ。
しかし、そんな危機感の少ない日本の行政に、警鐘を鳴らすニュースが飛び込んできた。6月16日、アメリカ食品医薬品局(FDA)が、トランス脂肪酸の食品への使用を3年以内に全廃すると発表したのだ。
トランス脂肪酸の危険性について早くから議論してきたアメリカがついに下したこの判断。これを受けて日本の行政がどのような動きを見せるのか、今後の動向に注目が集まっている。
ニューヨークの飲食店では、すでにトランス脂肪酸の使用を禁じている
今回のFDAの発表により、トランス脂肪酸に対するアメリカの取り組みが広く知られるようになったわけだが、その歩みをさかのぼってみると、随分早くから対策を講じていたことがわかる。特にニューヨーク市やカリフォルニア州の対策は徹底しており、飲食店でトランス脂肪酸が含まれる食品を提供できないよう、すでに条例が施行されている。2010年に施行されたカリフォルニア州の規制内容を一部ご紹介しよう。
「第1段階として、2010年1月1日から、人工的なトランス脂肪酸を含むマーガリン、ショートニング等の油脂の販売や使用を禁止する。ただし、この時点では揚げ菓子やケーキ用の油脂は除く。第2段階として、2011年1月1日からは、人工的なトランス脂肪酸を含むあらゆる食品の販売や使用を禁止する」
この規制を受けて、飲食店はメニューの見直しを迫られることに。特にトランス脂肪酸の宝庫とも言えるファストフード店はその対策に苦慮したようで、たとえば『マクドナルド』は18種もの油をテストし、フライドポテトを再開発したのだとか。結果、フライドポテト100グラム中、トランス脂肪酸を0.2グラムに抑えることに成功(通常はMサイズで4.5グラムほどのトランス脂肪酸を含む)。看板メニューはどうにか生き延びた。
日本でのトランス脂肪酸対策は今後どうなる?
アメリカでは随分進んでいるトランス脂肪酸対策。ここ日本では、今後どのような動きを見せるのだろうか。
世界保健機関(WHO)によると、トランス脂肪酸の摂取量は、1日に得る総カロリーの1%以下に抑える必要があるという。これは、一般的な成人男性だと約2グラムが上限となる計算。こうした世界的な基準に対して消費者庁は、「日本人のトランス脂肪酸の1日の平均摂取量は0.9グラム前後。健康への影響は少ないと考えられる」という見解を示しており、特別な対策はいまだ取られていない。
しかし、今回のFDAの発表によって、トランス脂肪酸の危険性について世の中の関心が集まっていることは事実。世論が高まれば、行政が動き出すこともあるだろう。
では、もしニューヨークのように飲食店に対しての規制が設けられた場合、どのような店舗が影響を受けるのだろうか。トランス脂肪酸は、ショートニングを用いて作られたパン、マーガリンを用いたクッキーやケーキ、さらにショートニングオイルで揚げられた揚げ物などに多く含まれている。これらの食品を提供している飲食店は間違いなく影響を受けそうだ。
対策としては、トランス脂肪酸を多く含む調理油を、パーム油などに変更するといった方法が考えられるが、一方で飽和脂肪酸の増加を招く可能性も指摘されている。代替品を検討する際は、トランス脂肪酸を減らすことだけを目的とせず、さまざまな角度から健康面を配慮することが大切だ。
今後、この問題がどのように扱われていくか不透明ではあるが、段階を追ってトランス脂肪酸を規制していく可能性は十分にある。飲食店は早めに対応策を検討しておく必要がありそうだ。