ニュースレターの購読はこちらから(無料)
Foodist Mediaの新着記事をお知らせします(毎週2回配信)
※お申し込みの前に、個人情報の取扱いについてご確認いただき、同意の上お申し込みください。
powered by 飲食店.COM ログイン

28歳、若きオーナーシェフ「目指すは二ツ星」。西麻布『Takumi』大槻卓伺氏の挑戦

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

『Takumi』オーナーシェフ・大槻卓伺氏

神戸大学の経営学部卒業後、修行のために渡仏。そして開業へ。異色の経歴を紐解く

2017年の2月に西麻布にオープンしたフレンチレストラン、『Takumi(タクミ)』。オーナーシェフ・大槻卓伺氏はまだ28歳という若さである。神戸大学で経営学を学んだ後、単身フランスへ渡り、現地の二ツ星、三ツ星レストランで修業。帰国後開業したという異色の経歴を持つ。

料理そのものも独創的だが、提供するスタイルも斬新だ。料理を構成する食材や香辛料を小瓶に入れて並べ、特徴を書いたカードを添えることで、組み合わせの妙を理解しながら楽しむことができる。「ケーキ屋さんで大人買い」がコンセプトのデザートは一度に11品が供され、客席から歓声が上がるアイコニックなメニューとなっている。

そんな大槻シェフはいつ頃から料理人を志していたのだろうか?

「僕は物心ついたころから料理人になりたいという夢があり、一度として変わったことがないんです。しかし我が家には、必ず良い大学に行くという鉄の掟がありました。そこで、将来オーナーシェフになることを見据えて経営学を学ぶために神戸大学に入学したのです」

卒業後、料理の専門学校や、国内の飲食店で働くという選択肢はなかったのだろうか。

「幼いころから独学で料理を学んでいたので、基礎的なことに関してはすでに出来ているという自負がありました。有名レストランのシェフが調理法を紹介している本はたくさんありますから、同じ道具や食材を揃えれば、独学でも学ぶことは可能だと思っています。フォアグラも一房から買うことができますし、市場に行けばレストランのオーナーに混じって食材を仕入れることができます。

例えば魚料理であれば、小さなサバから大きな鯛まで捌き方を覚えました。その次はハモのような特殊な魚を手がけたり、ヒラメを五枚におろしたりすることも練習しました。週末は必ず料理を作っていたので、中学時代、友達と遊んだ経験は3年間で3回しかありません。そのため、調理学校の生徒や飲食店の新卒採用として、イチから勉強し直すということは選択肢にありませんでした。フランスは年功序列ではなく実力主義で、仕事が出来れば相応のポストがもらえるということを聞いたので、フランスで自分の腕を試したいと思うようになったのです」

最初は和洋中問わず作っていたという大槻氏。最終的にフレンチに絞った理由は?

「毎週料理を作っていくうちに、手をかけるプロセスが多いほうが楽しくなってきたんです。和食やイタリアンは引き算のシンプルな料理が多いですよね。一皿に対しての工程の数が一番多いのはやはりフレンチです。コース仕立てにしたら週末だけでは間に合わないほど時間がかかります。その充実感に満たされているうちに、いつの間にかフレンチを選択したという経緯です」

フランス料理のプロセスの多さに惹かれたという大槻氏

フランス修行を目指し、語学や資金稼ぎに打ち込んだ大学時代

卒業してすぐフランスへ旅立つことになる大槻氏。大学時代はどのように過ごしていたのだろうか。

「大学入学と同時に、フランスでの修行を実現するための四つの“コト”に専念しました。一つ目は大学での経営学。二つ目は料理。大阪の『La Becasse(ラ・ベカス)』という老舗のグランメゾンに無理を言ってバイトをさせてもらい、料理を学びました。三つ目はフランス語の習得。大学の第二外国語として選択していたことに加え、語学学校のフランス人講師を直接ヘッドハンティングし、彼の空き時間に語学を教えてもらいました。四つ目は家庭教師のバイトでお金を貯めること。中間業者を挟まずに顧客と直接交渉することで、中間手数料を取られることなく、収入を貯蓄に回すことができました」

まったく知らない土地であるフランスに行くのに不安はなかったのだろうか?

「当時、就活をしている同級生たちを横目に、自分で自分の選択肢をどんどん狭めていくことに不安は感じていました。その時どうするかというと、通帳を眺めていたんです(笑)。料理の腕も語学のレベルも数値化できませんが、お金だけは努力が数値として現れます。結果的に、4年間無職でもフランスでホテル暮らしできるくらいの額を貯めることができたのです。情報もコネクションも何もない状態で、フランスに行くことに踏み切れたのは、『これだけあれば、働かなくても暮らしていける』と不安を払しょくし、自分を奮い立たせることができたからです」

実際はフランスのホテルで引きこもることなく、二ツ星、三ツ星レストランを渡り歩くわけだが、修業先はどのようにして見つけたのだろうか。

「まず、フランスの各地で10軒の星つきレストランを予約して食べ歩きました。その中で『美味しい』と感じたら、履歴書とモチベーションを書いた紙を持って、キッチンでシェフに直談判したんです。それで運良く修業先が見つかりました」

コース料理の最後には11種ものデザートを一気に味わえる

すべては理想の一皿のために。戦略的に選び抜いた5つの修業先

単身フランスへ乗り込み、名のあるフレンチのオーナーへ直談判するのは大変な勇気がいりそうだ。人からの紹介を頼ることはなかったのだろうか?

「人から紹介されて行ったところに、自分が学びたいことがあるかどうかはわかりません。当時は、自分の中のオリジナリティを表現したいけど、その手段がわからないという思いがあったんです。フランスで働いた5軒のレストランは、学ぶべきテーマを決めて、すべて自分で選んでアプローチしました。

最初に働いたリヨンの『La Rotonde(ラ ロトンド)』は、王道のフレンチらしさが根底にありました。ブラッシュアップされた軽さやモダンさもあり、そのバランスの良さに惹かれたのです。2軒目の『Le Neuvieme Art(ル ヌヴィエンヌ アール)』にはM.O.F(フランス最優秀職人)の称号を持つシェフがいます。科学的なアプローチをしながらも、最終的にはナチュラルに仕上がっている表現の仕方に惹かれました。3軒目はパティシエ経験のあるシェフが腕をふるう『L'Amphytrion(ランフィトリオン)』。ナッツやフルーツを用いたデザートのような盛り付けが美しく、新しい感性に魅力を感じました」

そして、美食の国フランスで三ツ星に輝く『Le Petit Nice(ル プティ ニース)』へ。マルセイユで最も洗練されたホテル内にあるレストランで何を習得したのだろうか?

「『Le Petit Nice(ル プティ ニース)』は海に近いため、魚介をメインにした非常に軽いフレンチを提供しています。海に囲まれた島国である日本にも生かせることが多いと思って選びました。修行の締めは、フランスで一番熱い街・パリで最前線の店『Jean-Francois Piege (ジョンフランソワ ピエージュ)』です。僕も二ツ星を狙っていきたいので参考にしたいと思いました。計3年3か月の修行で自分に足りないものを満たし、『バランスよく働けた』と実感したので日本に帰国することにしたのです」

『Takumi』の魅力である「組み合わせの妙」を表現するために、料理の横には食材や香辛料を小瓶に入れて並べ、特徴を書いたカードを添える

料理を「論理的においしく」するため、仮説と実験を繰り返す

その後、日本で就職することなくそのまま開業に至ったのだろうか?

「帰って半年くらいは実家で試作期間を設けました。そして、自分の中で『問題ないな』と判断したタイミングで上京したんです。しばらくはサービスの知識を補うために広尾のレストランでアルバイトをしながら開業の準備をしていましたが、良い物件との巡り合わせもあり、今年の2月に開業に至りました」

自分が追い求めてきた「理想の一皿」をついに表現できるようになった大槻氏。『Takumi』で表現したい“オリジナリティ”とは何だろうか?

「料理は論理的に美味しくあるべきだと思うんです。仮説を立てて実証し、結論に至るという科学におけるアプローチと、料理のアプローチは一緒なんです。例えば、ハーブと言ってもいろんな種類があります。水に浸けると腐ってしまうものもあれば、みずみずしさを保ち続けるハーブもあります。『これは暖かいところで育っているハーブだから、もしかしたら室温で置いたほうがいいのではないか』という仮説を立て、対称実験という形で、冷蔵庫で保存しているハーブと比べてみる。水や油に溶けやすい香り成分なのかどうかも調べる。火にかけると香りが飛んでしまうのであれば、刻んで添える。生のまま食べると口に残るようならば、ピューレ状にします」

大槻氏が修行していたフランスでは、ハーブは肉や魚の臭い消しという使い方が多いのではないだろうか?

「古典的なフレンチでは、臭み消しでハーブを入れるという考え方がありますが、あれはもともと魚の骨や内臓の処理がうまくいっていないのをごまかすために加えているのです。それは過度な足し算だと思います。魚は臭いが出ないよう丁寧に処理し、ハーブはそのものに主眼を置いて調理してあげることで、それぞれが生きるんです。日仏問わず『今までこうしていたからこうすべき』というのではなく、ブラッシュアップできるところは自分で見つけて磨きあげていきたいと思います」

食材一つひとつに真摯に向き合い、その特徴を最大限に引き出す努力をしているからこそ、小瓶に食材や調味料を入れて客席に並べるというアイデアが生まれたのかもしれない。まるでラボのようだ、と思わず感想がもれる。

「ラボと言われればそうなのかもしれないです。今は開店したてでまだご予約の方が少ないので、どんどん試作しながら、やがて来るであろう嵐に備えているところです。2年以内に一ツ星、そこから5年以内に二ツ星を狙いたいですね」

料理や進路の選択において、これまでのセオリーにとらわれず、自分の道を切り開いていった大槻氏。彼の人生は戦略的に設計され、まったく無駄がないように感じる。柔らかくも決意に満ちた彼のまなざしは、店に「嵐」が訪れる日もそう遠くはないことを予感させた。

『Takumi』オーナーシェフ・大槻卓伺
神戸大学経営学部卒。卒業後、単身渡仏。二ツ星レストラン『La Rotonde (ラ ロトンド)』『Le Neuvieme Art (ル ヌヴィエンヌ アール)』『L'Amphytrion (ランフィトリオン』『Jean-Francois Piege (ジョンフランソワ ピエージュ)』、三ツ星レストラン『Le Petit Nice (ル プティ ニース)』に勤務。計3年3か月の修行期間を経て、開業に至る。

洗練されたシンプルな内装

『Takumi(タクミ)』
住所/港区西麻布 1-11-10 ビルマーサ 1F
電話番号/03-6804-6468
営業時間/ランチ:11:30~15:00 、ディナー:18:30~23:30
定休日/日曜日、月に一度の不定休
席数/22

Pocket
follow us in feedly

Foodist Mediaをフォローして最新記事をチェック!

ニュースレターの購読はこちらから(無料)
Foodist Mediaの新着記事をお知らせします(毎週2回配信)
※お申し込みの前に、個人情報の取扱いについてご確認いただき、同意の上お申し込みください。
[PR]
三原明日香

About 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。