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あえてカレーで勝負して大繁盛! 『フレンチカレーSPOON』に聞く“当たる”コンセプトの作り方

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話をうかがったオーナーの和田直樹さん。

飲食店は国内だけでも数え切れないほどにある。そのなかで個性を出していくためには、美味しい料理を提供するだけでなく、店の魅力をアピールするための「コンセプト」が必要だ。どのようなジャンルの料理を出し、どのような時間をお客様に過ごしてもらいたいか。店のコンセプトをうまく決められれば、他店との差別化も図れる。今回は、「フレンチカレー」という既存にないコンセプトを打ち出した『フレンチカレーSPOON』のオーナーシェフ、和田直樹さんに話を伺い、これまでの道のりやコンセプトの考え方を聞いた。

「フレンチの敷居を下げたかった」。フレンチ×カレーの新境地を目指すはじまり

店名にもなっている「フレンチカレー」は、一見欧風カレーのようなものを思い浮かべるかもしれない。しかしじつは定義として存在しているわけではなく、和田さんが独自に考えたジャンルだ。

フレンチカレーはまさに、フレンチとカレーが組み合わさった新しい料理。フランス料理の手法や食材を利用してカレーを作り、飲食店として提供している。メニューにはフォン・ド・ヴォーを使って作る定番「フレンチカレー」のほか、「新玉ねぎのポタージュとキーマカレー」や「ブイヤベースカレー」など、フランス料理でなじみのあるメニューと組み合わされたものも提供されており、どれも個性豊かだ。サイドメニューでもフランス料理が食べられ、一般的なカレー店とは少々印象も違う。

なぜフランス料理とカレーを組み合わせるに至ったのか。きっかけを伺ってみると、「フレンチって敷居が高く感じるじゃないですか。だから気軽に食べてもらえるためにカレーにしたんです」と教えてくれた。

もともと和田さんのバックボーンはフランス料理にある。調理師専門学校を出て約10年、『ル・ブルギニオン』『ミラヴィル』『ル・ジュ―・ドゥ・ラシェット』など複数の名門フレンチレストランで修業し、副料理長としても活躍した。そのなかで感じたのが、フレンチを普段使いに食べる人が少ないということだったという。

「たとえば誕生日、クリスマス、記念日などのイベントなどの特別な日に行く方が多く、普段使いしている人が少ないんです。また、フランス料理を特別な日にと考えている方は、きちんとフランス料理をイメージできているわけではないことが多いと思います。よくわからないけれど、なんだか敷居が高そうだなと思っている。だから、普段使いしにくいということがあるのではないでしょうか」。

たとえばふらっと外食に出かけようとするとき、どんなことを考えるだろうか。和田さんは、普段使いの店はメニューの想像ができるものが多いという。「『ああ、今日は焼き肉が食べたい、うどんが食べたい』と、食べたいものをある程度想像して出かけるのが普通です。でも、フレンチってなかなか想像がつきにくいのかなと思うんです」。

親しみやすい店で提供される料理には、多くの場合わかりやすい名前がついており、簡単にイメージできる。洋食でもたとえばイタリア料理であれば、ピザやパスタをすぐに思い浮かべることができるだろう。一方で敷居が高いと感じるフランス料理のコースには、素材の名前や調理法がシンプルに並べられたメニュー名であることが多く、前もって具体的に想像することが難しい。そんなイメージのつきにくさこそが、普段使いにならない理由なのではないかと考えたという。

だからこそ、もっとフランス料理に親しみを持ってもらうには、想像できるようにすればいい。フランス料理に生かせるようなもので、具体的にイメージできるもの、特に大衆食に落とし込めるもので何かないかと悩み、たどり着いたのが「カレー」だった。カレーは日本を代表する大衆食であり、煮込み料理だ。そこが、煮込み料理の多いフランス料理と相性がよいと考えた。フランスの家庭料理に代表されるものは、ブイヤベース、ラタトゥイユなど煮込むものが多い。そこにカレーのスパイスを組み合わせれば、カレーとしての形をなし、なおかつフランス料理としても提供できることに気がついた。

出汁のうまみがたっぷりのブイヤベースカレー

自分のフランス料理を食べてもらうために、あえてカレーを選んだ

和田さんはフランス料理の修業を長年おこなってきたが、『フレンチカレーSPOON』を開くまでは、カレー店に勤めたことがない。そんな中でカレーを作るのは難しくなかったのかと聞くと、「まかないでよく、カレーを作っていたんです」と教えてくれた。ほかのシェフたちが作るカレーもまた美味しく、フレンチの料理人とカレーは相性が良いのではと感じていたこともきっかけの一つになったという。

高級フランス料理店に比べて、資金が少なく済んだことも理由の一つだ。ミシュランの星つきを狙う飲食店を開業するのであれば、初期投資の段階で3000~4000万円かかるといわれているが、カレー店であればそこまでの資金を必要としない。

今までにないジャンルで店を開くことに怖さはなかったのかを伺うと、「成功する自信もありましたが、若かったから勢いもあったかもしれません」と笑って答えてくれた。長年フランス料理で修業してきたこともあり、自分のスキルに自信がついてきたころだった。そして、自分のフランス料理を気軽に食べてもらう手段として、「カレー」と組み合わせることを選んだ。

カレーの激戦区、西荻窪で開店。コンセプトに合わせた立地選び

『フレンチカレーSPOON』があるのは西荻窪。カレー屋がひしめく激戦区だ。コンセプトが珍しいとはいえ、多種多様なカレー屋がある場所に出すことにしたのはなぜか。理由を聞いてみると、「じつは、たまたまなんです」という。店舗を出すにあたって探していた立地は、中央線沿い、吉祥寺から中野あたりまで。立地を選ぶ基準は大きく二つあった。

一つは都心ではなく、住宅街であること。「20年30年と長く愛される店を作りたかったので、地元の方にも親しまれる場所がいいと考えていました」。西荻窪近辺は地元の住民たちが楽しめる店も多く、独自の文化を持っている。渋谷や恵比寿など、比較的住民以外を取り込みやすい土地とはまた違う、地域密着の魅力を感じていた。

もう一つは、『フレンチカレーSPOON』が狙うターゲット層を意識することだ。「フレンチカレー」はどんな人々に好まれるのかを考えたとき、男性よりは女性をターゲットにしたほうがよいのではないかと思ったこと、さらに、単身者がふらっと来られるような店にしたかったことも踏まえ、単身の女性が多く住む街を選ぶようにした。

現在、『フレンチカレーSPOON』に来店する客層は女性が6~7割を占めている。さらにお1人様や2人連れなど少人数が多く、思い描いたターゲット層が食べに来てくれているという。店の個性を打ち出すコンセプトを考えることはとても重要だが、「そのコンセプトが一体どの層に好まれるのか」をきちんと検討することもまた、大切といえるだろう。

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竹野愛理

ライター: 竹野愛理

食と文学を愛するライター。飲食店取材、食に関するコラム、書評を執筆のほか、食関連のメディアや書籍にて編集者としても従事。趣味は読書と散歩。本を片手に旅行したり食べ歩きをしたりすることが好き。