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コロナと闘う、渋谷『酒井商会』の苦悩と葛藤。「正解なんて誰にもわからない」

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要予約で注文を受けているテイクアウト

売上が減っても給料を満額支払いつつ、助成金を申請

テイクアウトは1食2000円。「けっして安くない」と酒井さんは言うが、60食出ても12万円。

「店内での飲食代には到底及びません。酒の売上がいかに大きかったかを今回改めて認識しました。テイクアウトは薄利の割に、負担が大きいんです。今は少しずつ慣れてきてオペレーションもレベルアップし、僕もスタッフも成長しました」

3月分も4月分も給料は満額支払った。売上が激減したのに、なぜ給料を全額払うのか。

「スタッフには月に8日、交代で休んでもらっていますが、労働日数と労働時間は以前と同じです。売上が落ちたのは経営の問題だと認識しています。ただし、新店舗で働いてもらうつもりで採用した3人のスタッフは、4月中休んでもらいました。彼らの給料を支払うために雇用調整助成金を申請します」

そのほか、テイクアウト開始に伴う業態転換の補助金や持続化給付金、東京都の感染拡大防止協力金も申請している。給付金に関しては酒井さん自身が調べた部分もあるが、顧問税理士と顧問社労士に諸々相談をした。

自粛休業と営業継続。どちらが正解だったか誰にもわからない

「知り合いの飲食店の中にも自粛休業しなかった店があります。ただ、その店はガラス張りの路面店のため、『なぜ営業してんだ」と注意されたそうです。うちは誰かに言われたわけではありませんが、『おまえ、やってんの?』と思われているような空気を感じていました」

『酒井商会』はビルの2階にある。もしガラス張りの路面店だったら貸し切りとはいえ、入りにくかったかもしれない。

そしてGW明けから、営業を再開する飲食店が徐々に出てきた。

「それを知り、営業を継続した自分の判断は間違っていなかったと思いました。複数の同業者に、うちは1日しか休まなかったと伝えたら、『結果的にそのほうが正しかったかも』と言ってくれる人もいました。もちろん、自粛休業した店も正しかったと思います。というか、どっちが正解なのか誰にもわかりません。コロナが悪いだけ(笑)」

ナチュラルワインと創作料理のマリアージュを楽しませてくれる

5月7日、貸し切り営業から通常営業に戻した。テイクアウトの注文も引き続き受けることに。

「これまで評価いただいてきた従来のスタイルが、アフターコロナでも通用するのかどうか……。もしかすると大衆酒場みたいになったり、店内営業をしつつ、ミールキットやテイクアウトの販売、ケータリングを受ける店にならなければいけないかもしれません」

その心の準備もしておいたほうがいいとスタッフに伝えた。けれど、6月末に開業する新店舗『創和堂』は、コロナ禍以前から思い描いてきたコンセプトを変えないつもりだ。『酒井商会』よりも3倍広く、カウンターメインで開放的な店舗だそうだ。メニューこそ変えるが、『酒井商会』のスタイルを踏襲する。

また、当初は窓が開かない仕様だったが、急遽店舗デザインを変更。窓が開き、換気ができるようにした。開業以来、『酒井商会』は窓を開けずに営業してきた。閉ざされた、隠れ家的な空間が『酒井商会』の魅力のひとつだったが、新店舗ではコロナ禍の影響で変化が求められた。

「雰囲気が変わりましたが、生き残るためのセンスも必要です(笑)」

5月26日、緊急事態宣言が解除。『酒井商会』では店内営業を以前の時間に戻すことにした。新店舗オープンと同時に、テイクアウトにも終止符を打つ。ポジティブに考えれば、コロナ禍も悪いことばかりではなかったのかもしれない。

「確かにそうなのかもしれません。つぶれてしまえば元も子もありませんが(苦笑)、乗り越えることができれば、新しいスタッフも含め、みんなといい時間を過ごしているのかもしれません」

予約がとれない店だったが、6名しか客が来ない日もあった。それでも営業継続を選択。そして慣れないテイクアウトもスタート。自分達で考え、もがきながら営業を続けてきた。スタッフと「いい時間を過ごした」酒井商会がどんな店に成長するのか。いましばらく見守っていきたい。

『酒井商会』
住所/東京都渋谷区渋谷3-6-18 荻津ビル2階
電話番号/070-4470-7621
営業時間/16:00~22:00(土日祝日15時~22時)、テイクアウト12:00~18:00(最終受付)
席数/20
https://sakai-shokai.jp/

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。