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緊急事態宣言下で戦う飲食店のリアルな声。「時短協力金」未だ支給されず

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写真はイメージ。画像素材:PIXTA

3月22日、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県に発令されていた緊急事態宣言が全面解除された。当初の予定より延長された1都3県の飲食店では、約2か月半に及び酒類の提供は19時まで、営業は20時までという時短営業を強いられたことになる。

2020年4月に発令された緊急事態宣言よりも長期に渡った、2度目となる首都圏に対する緊急事態宣言。その政府の方針に何を思い、どんな対策で経営を乗り切ってきたか、飲食店経営者たちにリアルな声を聞いてみた。

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コロナ禍で新たにキッチンカー営業も始めた千葉県船橋市の『hygge』

不要不急の外出を控えるよう呼びかけられた緊急事態宣言下では、フードデリバリーやテイクアウトの需要が高まった。1度目の緊急事態宣言時からテイクアウトとデリバリーを自前でスタートさせ、2020年秋頃からはキッチンカー「うまいもんブラザーズ」の運営も始めるなど、新たな活路を見出しているのが千葉県船橋市にあるカフェ風バル『hygge(ヒュッゲ)』だ。

「前回同様、今回も緊急事態宣言が発令されるとわかった時点で、テイクアウトとデリバリー営業をしているという案内チラシのポスティングを近隣住宅に行いました。今回の緊急事態宣言ではUber Eatsと出前館を使ったデリバリーも始めました」と語るのはオーナーの小濱哲也さん。しかし、前回と比べ今回の緊急事態宣言下では、デリバリーとテイクアウトともに注文が減ったという。この要因について小濱さんは「以前は人々に『苦境にある飲食店を守ろう』という空気がありましたが、今回は1日6万円の協力金が出るということで、飲食店への風当たりが強くなったように感じます」と推測する。

人気メニューの「キラキラチーズオムライス」(1,200円/税込)

一方、比較的順調なのが店舗でのランチ営業とキッチンカーだ。ランチ営業に関して言えば、約2年前の同時期と比べ平日でも2倍ほどのお客さんが訪れているという。客足が増えた理由には同店のオムライスが「オムスタグラマーが選ぶオムライスグランプリ2020」で全国1位に選ばれたほか、昨年テレビでも紹介されたことがあるようだ。

自慢のオムライスは、卵本来の美味しさを存分に味わえるよう、ギリギリまで強火で仕上げたフワフワオムレツがポイント。オムライスはメニュー数も豊富で、なかには千葉県産のホウレン草を使ったペーストを卵に混ぜ込んで焼き上げたオムライスや、船橋産のホンビノス貝で作ったクラムチャウダー風ソースをかけたオムライスなどもある。地産地消にこだわるほか、規格外で市場に出回らない食材を使うなど仕入れ値を抑え、フードロス問題にも取り組む。今後は地元の生産者の方と直接取引できるよう、市役所の農林水産担当者にも相談予定だという。

そんなこだわりのオムライスは、キッチンカーでも調理を行い、店舗と同じ出来立てを販売。以前小濱さんは新宿中央公園でキッチンカーを運営していたこともあり、そのノウハウを生かした。現在キッチンカーは週4~5日ほど、11時から夕方にかけての時間、船橋親水公園のフナテラスや船橋市役所前のほか、柏や幕張、木更津にまで出向いて営業を行なっている。客からの評判も上々で、場所によっては1日で100食を売り上げることもあるという。とはいえ「千葉県はまだまだキッチンカーが営業できる場所が少ない」と課題感も示す。最近スタートした船橋市役所前の営業も、小濱さんが市役所職員に相談したことで実現したといい、まだまだ開拓の余地がありそうだ。

キッチンカーやテイクアウト時のオムライス(800円/税込)。卵本来の味わいを楽しめるよう工夫している

ランチとキッチンカーは好調だが全体売上は例年の半分程度

そんな順調に見える『hygge』も夜営業の売上はかんばしくない。ここ最近は客足が戻ってきたとはいえ、それでも時短要請に応じているため夜の来客数は1日に3~4組ほど。歓送迎会シーズンのこの時期は例年売上がアップすることもあり、ランチやキッチンカーが好調とはいえ、全体の売上は例年の半分程度だという。

夜営業の売上に加えて、コロナ禍で飲食店経営者が直面する問題の一つといえば、従業員の雇用についてだろう。現在『hygge』では5人を雇用しているが、コロナ禍でも雇用やシフトを維持している。先程のポスティングについても、コロナ禍で従業員のシフトを維持するための工夫でもあった。

さらに雇用維持としての意味合いを持ったのが、キッチンカーだ。「2006年にお店をオープンさせてから、自分ともう一人パートナー的な人材を置き、あとはアルバイトスタッフで回していましたが、急な離職があったときに対応しづらい。そこで現在はメインで働ける人を私含め3人に増やしました。これはキッチンカーをスタートするに当たって対応する人材が必要だった、というのもあります」と小濱さんは明かす。

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。