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価格高騰の今、飲食店の原価率30%は正しい指標か? これからの「売上とコスト」を考える

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画像素材:PIXTA

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けてきた外食業界であるが、2022年は円安やウクライナ危機などの影響で、仕入価格や光熱費の高騰に直面、厳しい状況が続いている飲食店は多い。

このような同時多発的な情勢の悪化により、飲食店における「原価率の捉え方」も変わってきている。今回は、現在の飲食店の売上と原価を含むコストの考え方について解説する。

【注目記事】飲食店を「黒字経営」するために把握すべき3つの数字。損益分岐点の計算方法も紹介

飲食店経営における、これまでの原価率の考え方とは?

飲食店の原価率について、これまでは売上の30%をひとつの基準とし、FLコスト(原価率と人件費率の合計)なら、売上の60%を目安にするという考え方が一般的だった。たとえば、高級食材を使ったり、販売価格を抑えたりして原価率が高くなる場合、人件費分を抑えてFLコストを60%以内にする、といった工夫が推奨されてきたわけだ。また、店舗賃料に関しても売上比10%という基準がある。

これらを踏まえ、FLコスト60%+賃料10%+その他経費20%で合計90%を目標にして、利益10%を目指すというのが、よく言われている考え方だ。ただ、賃料やその他経費は固定費であり、なかなか店舗努力だけで管理するのが難しい経費であるため、飲食店の場合はFLコストのコントロールに注力するのがベストとされている。

従来のセオリーではコントロールしきれない状況になってきた

しかし前述の通り、現在は円安や戦争の影響などで、食用油、小麦粉、肉類、アルコールなどの仕入価格が高騰している。仮に仕入価格(原価)が10%アップしたとしよう。原価率30%の店舗の場合、何の対策もしなければ原価率が33%となり、利益が3%減少することになる。これはコロナ禍の中で少しずつ回復してきた店舗であっても、あっという間に利益がなくなってしまうくらいのインパクトだ。

■人件費に加え、採用コストも上昇
この原価上昇分について、ほかのコストを見直すことで調整できるかというと、そう簡単な話ではない。例えば人件費に関しては、コロナ前から最低賃金が上昇している。東京都の場合は、2022年10月1日から最低賃金は時給で1,072円となっており、以前の1,041円から31円(約3%)の上昇となっている。

また特に飲食業の場合、社員・アルバイト問わず、採用コストも上がり気味だ。これまで、緊急事態宣言やまん延防止法による休業要請などでたびたび働く機会を失ってきた元飲食店員にとって、飲食店への再就業は懸念が大きいのだろう。ほかの業種へ移るケースも増えてきている。そのため、求人広告費にかけるコストが増大。費用をかけたところでなかなか採用につながらないのが実情だが、求人活動を止めるわけにもいかず、難しいところだ。

■水道光熱費や坪単価もアップ
さらに光熱費のコストアップも、電気やガス、水道の使用量が多い業態の場合は、大きな負担となる。賃料に関しては、例えば東京都渋谷区や新宿区では、平均坪単価がコロナ前より上昇(※)。地域差もあると思うが、全国的に見ても減少傾向にある地域は少ない。
※参考:飲食店ドットコム 店舗物件探し「渋谷区の賃料相場情報」「新宿区の賃料相場情報」

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値上げ=適正な利益を得ることは、悪いことではない

売上が作りにくい、一方コストは上がり続ける。このような状況でどう経営すればいいのだろうか?

まず行うべきは、価格転嫁だ。もし貴店が2022年に値上げをしていないようであれば、迷わず実施してほしい。これだけ原価も販管費も上昇している中で販売価格を変えなければ、利益が減少するのは当然だからだ。

店舗存続のために適正な利益を得ることは悪いことではない。大手飲食チェーンでは一年で複数回の値上げを実施したところもあり、ある程度の値上げは仕方ないと考える消費者も一定数はいる。

仮に10%値上げをしたとする。客数が変わらなければ値上げ前と比較して110%の売上になり、その増加分はそのまま利益となる(値上げをしても原価は変わらない)。値上げで客数や客単価が減り、仮に105%の売上だったとしても、そのメリットは大きい。

単純な値上げではお客が離れてしまいそうで怖いという場合は、付加価値を持たせながらの値上げを検討しよう。具体的には、品質の高い食材に切り替える、量を増やす、数量限定にする、といった特別感を打ち出し、その価値を伝えることに注力するといい。値上げの詳細に関しては、以前にも記事を書いているので参考にしてほしい。
>>以前の記事:飲食店が「値上げ」する際の3つのポイント。どのメニューを? お客様への告知は

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若林和哉

ライター: 若林和哉

株式会社パートナー経営企画・代表取締役。飲食店の勤務経験や中小企業診断士の資格を生かして、事業計画作成や資金調達の支援、フランチャイズ関連のWebページの執筆やセミナー講師などを務める。好きなお店は、ラーメン・カフェ・日本酒のおいしい居酒屋など。https://パートナー経営企画.com/