渋谷の予約困難店『Niru』。駅徒歩15分でも客が絶えない「仕込み」の流儀
仕込みに全力投球。営業中はゆでるだけ、揚げるだけ、盛るだけで完結
「煮る」にフォーカスしたことで、他店や大手との差別化にもなったと佐保氏は話す。なぜなら、煮込み料理はとにかく仕込みが勝負。スープをとったり煮詰めたりと、営業時間外に多くの手間を要するため、労働環境を考えるとオーナーとシェフが別々の店はまず難しいというのだ。
かくいう佐保氏の仕込みは、毎日昼頃からスタート。常時4種類以上そろえる煮込み料理をはじめ、冷菜や温菜もすべて営業開始の17時までに9割の調理を終える。営業中はそれらを“ゆでるだけ・揚げるだけ・盛るだけ”。包丁を握るのはレモンを切る時くらいという徹底ぶりだ。「常連のお客さまには、店名は『Niru(煮る)』じゃなくて“Shikomi(仕込み)”にしたら? といわれます(笑)」と、佐保氏。
さらに、すべてのメニューの素材や調味が独立しているという点も、佐保氏のストイックさがうかがえる部分だろう。同じ食材やスープストックを同日に使うことはほとんどないのだとか。
そこまでする理由を「外食が好きなお客ほど見抜くから」だと佐保氏は語った。
「星の数ほどある飲食店の中で、ワインを好んでわざわざここまで足を運んでくれるようなお客さまであればなおのこと、同じ食材や調味を並べればすぐに気づかれて見くびられてしまいますから」
コスパ&タイパも意識。保存が効くもの、下処理済みの食材を使いロスや手間を削減
塩味は控え、スパイスで香りを補ったり出汁やうま味の強い食材を取り入れたりすることで、満足感と軽さを両立させるのが『Niru』流。品数を食べても疲れない味わいや、すべてで違うテイストが楽しめること、さらにはメニューの半数が毎週替わる点も、『Niru』に常連客がつく理由だろう。
それでも、一度仕込みさえしてしまえば営業中の調理は極力少なくできるため「この方法は効率がいい」と佐保氏は話す。
一方、こうした手間をいとわない点に対して、同じ仕込みの中でも実にコストパフォーマンスとタイムパフォーマンスが高い“メリハリの付け方”に、佐保氏の工夫が光る。素材を流用しないとなるとロスが気になるところだが、乾物やオイル漬けなど保存性の高い食材をうまく取り入れるほか、骨抜き済みの魚の切り身や薄切り肉など下処理された食材を使うことで、そもそも廃棄部位を出さないなどの対応も。またそれは同時に、魚をさばく、肉を切るなどの作業を減らすことにもつながっているという。
「任せられる部分はプロに任せて、僕は料理のアイデアや調味・調理など自分しかできないところで個性を出すことに集中したいんです」(佐保氏)
