最高月商190万円の中板橋『1 ROOM COFFEE』。ワンオペカフェの利益構造改革に挑む
時にはお客を減らす施策も必要。“生き抜く”マインドで変化に挑む
しかし、時にそれは自分ではコントロールできない不可抗力であっという間に揺るがされてしまうとも内山氏は語った。たとえばコロナ禍、酷暑、ゲリラ豪雨、さらにはメディア露出も人々の行動変容のファクターとなり得るだろう。本格的なSNS時代に突入した今、自分が感知しないところでひとりでに情報が拡散され、突如大行列になることさえある。そしてそのたびに内山氏の心には、客数や客単価を追い続けることへの課題感が……。
ただそうした壁にぶち当たった時、「同じことを続けていても状況は好転しない」というのが、内山氏の考えだ。たとえ客数や収益が上がっていても、歯車が狂い始めた、自分が納得できるサービスが提供できていないと感じたのなら、何かを変えなければならないとすぐさま実行に移してきた。
『1 ROOM COFFEE』が取り入れるユニークな試みの一つに、ダイナミックプライシングがある。
SNSでの反響に端を発し、一時は行列続きだった休日の混雑を緩和させつつ売上を維持する策として、土日祝日に一人当たり150円の席料を設けたのだ。初めの2、3か月は目に見えて客足が減少したといい、「減らすための施策ではあったものの、さすがに失敗したかなと思った(笑)」と話すが、それも徐々に回復。落ち着いてみればトータルの月商は上昇した上、お客一人ひとりに再びベストなサービスができるようになり、手応えは上々だ。
ほかにもコア層をターゲットに、会員特典付きの月額200円のサブスクリプションを展開したり、営業開始前の1時間を貸し切り利用できる「ラグジュアリーパス」を設けたりと、個人経営のカフェでは斬新ともいえるさまざまなビジネスモデルに挑戦。先の7、8月の営業は、酷暑による昨年の大幅な客足減を猛省し、オープン時間を7時半に大きく前倒しすると共に高単価の新メニューをぶつけるなどして対応したという。すべては、自身のベストパフォーマンスの提供を維持しながら、土台としての利益を確保するための試みだ。
「変化を恐れていないと思われがちなんですが、内心いつもビクビクしています(笑)。でも、現状を打破するには変えるしかない。だめだったらまた戻せばいいかなって。『楽しみながら、“生き抜く”』。そんなマインドを大事にしています」
「店が存在する価値」をいかにお客と共有できるか
一般的に、客単価や回転率が低いとされるカフェは、理想的とされるビジネスモデルと相反する部分が多い。さらに、「身近でほっとできる場所」を求めてカフェを好むお客ほど営利的な側面に難色を示す傾向があるため、値上げやあからさまな増収システムの導入は客離れにつながることも。
しかし内山氏は、本来は「店がなくなること」こそ、お客にとっても店主にとっても不利益なはずだと話す。
「『刺激や安らぎを届けるコミュニティでありたい』という原点は変わりません。『おいしい』でも『かわいい』でも『楽しい』でもいいから、ほっとした、元気が出た、来てよかったと思ってもらえる場所を僕も続けたい。だからこそ、保つことができる落としどころを探っています」
店側が届けたいサービスを楽しく提供し続けられる環境と、お客側が求める空間であることの着地点を見出す——。それはけっして容易なことではないだろう。だが、『1 ROOM COFFEE』が確かにそれを実現している背景には、「この店が存在する価値」をお客と共有できていることにあるのではないだろうか。だからこそさまざまな変化にもお客は理解を示し、楽しみながら受け入れ、強固なコミュニティが築かれる。結果、安定した経営につながるのだ。
ただ、すべての出発点は、常に自身がベストなパフォーマンスを発揮できる環境を整え、納得いくサービスをお客一人ひとりに提供することで、高い満足度を得てきた内山氏のサービスマン魂にあることを忘れてはならない。強く根を張った土台を構築してきたからこそ、新たな挑戦ができているといえそうだ。
