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三軒茶屋『大衆酒場ひので』も月商450万円。人たらし店主が目論む「10店舗10業態」の真意

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『大衆酒場ひので』の各階にはテーマを設けており、2階は「歴史」。寺や古民家にある天蓋を天井に装飾(写真提供:たいようグループ)

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運営全てを店舗スタッフに託す圧倒的自由な社風

独立から3年も満たずに3店舗を出店し、居酒屋オーナーの成功例の王道をハイペースで歩む吉村氏だが、美しい海に囲まれた小さな離島・壱岐島育ちとあり、のんびり穏やかな性格の自由人。普段は店にはほとんど顔を出さず、次の出店に向けてのリサーチや物件と人材探し、時には飲食業界の先輩からの意見を求めて都内に出没する。

「僕はとにかく情報を集めて、現場で頑張っているスタッフに伝えるアウトプット係です。飲食業界は流れが早いから、そうしないと置いていかれると思うので」と、吉村氏はその理由を明かす。

3店舗を抱えるオーナーであれば、吉村氏と同様に元は料理人でも厨房に立たず、経営戦略に注力される方も多いだろう。ただ、他の経営者と吉村氏の決定的な違いは、現場を託すスタッフに与える圧倒的な自由度かもしれない。

たいようグループの社員は現在6人、各店2人ずつを配してアルバイト2~3人で回している。各店開業するにあたり、吉村氏が決めるのは、基本的にこの従業員数で回せて利益も見込める15坪以下、家賃35~40万円の物件と内装デザインを含めた業態のみ。

3階のテーマは「家」。ちゃぶ台、座敷でくつろげる団体利用向け。立ち飲みの1階は「談笑」がテーマ(写真提供:たいようグループ)

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「『大衆酒場ひので』の開店前は、3フロアあるので1階は立ち飲み、2階はテーブル、3階は座敷とそれぞれ雰囲気を変えて、より大衆感を演出できる『銀皿料理』の業態にしようと伝えただけです。メニューの開発、フード・ドリンクメニューの構成とその売価、食材の仕入れでどこの業者を使うかまで、全部現場にいるスタッフに任せています。オペレーションを第一義に考えることもオーナーとしては大事ですけど、スタッフのやりたいこともある。そのバランスを取ってもらうのが『自由』だと僕は思っています」

社員の士気を高めるための目標設定と多業態出店

もちろん商売である以上、お金に関してはシビアだ。

「売上目標を毎月設定し、レギュラーメニューの原価率は30%以下に抑えることを徹底しています。けれども、普通のオーナーならリアルな数字はあまり言わないじゃないですか。僕は利益率やFL比率がいくらかなど、言える範囲で分かりやすく伝えます。そうすることで社員が勉強してくれて、各々が率先して人件費や食材の原価を再確認してくれたりします。一方で、『商売だから利益を残さないといけないけど、払ってもらう値段以上に喜んでもらえる料理やお酒を出していこう!』と、儲け主義に走らない会社のポリシーも理解してくれていますね」

レギュラーメニュー(写真)で原価率を抑える一方、日替わりおすすめメニューでは原価率の高い魚介系などを用意

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その目標をクリアした社員には、給料とは別にインセンティブ、ボーナスが支払われるシステムも構築している。うれしい還元もあるが、店の運営を一任されているスタッフは、店という一つのチームで売上を伸ばしたこと自体に喜びや達成感を感じているという。またそれが「10店舗10業態」を掲げる理由でもある。

「業態が同じでは必然的にメニューも同じになるので、『今月はこんなに売り上げた!』といった従業員の達成感が生まれません。そして絶対に仕事に飽きる……。僕自身も飽き性だから分かるんです(笑)。『餐茶 (サンチャ)』の場合、名物のあて巻きを一日何十本と巻くわけですから。結局、それが離職率の低下につながります。飽きたら違う業態の店に異動して学べるように、全店の業態を変えたいです」

たいようグループでは来年、下北沢に生ハムの店を出店予定。その先は鉄板もつ焼きの店をつくりたいとの構想も頭の中で描いているという。

名物メニューの「チーズ月見鶏ハンバーグ」(680円)。客の前でスタッフがチーズを削るパフォーマンスも

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小林智明

ライター: 小林智明

埼玉県出身。情報誌の編集プロダクションを経て、2006年にライターとして独立。食、旅、スポーツ、エンタメなど多岐にわたり取材・執筆活動を展開中。グルメ取材はラーメン店を中心に計500軒を突破。好きなお酒は辛口純米酒。