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坪月商63万円『青山一丁目たぬき』。大衆酒場“未開の地”、それでもStyLe社が勝つ理由

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駅から3分ほど、都営南青山一丁目アパートの1階に位置する『青山一丁目たぬき』

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「路面店×大衆酒場」需要にハマる店作り

石川氏が飲食店、特に大衆酒場が圧倒的に少ないこの地で『青山一丁目たぬき』をオープンした狙いはなんなのか。

「このあたりはオフィスビルの中に飲食店はあっても路面店はあまりない。特に居酒屋の需給バランスが崩れていると感じ、ここにドンピシャ当てはまる大衆酒場を出せば、絶対に流行ると確信していました」

そうは言っても、オープン時期はコロナ禍の2022年。飲食業界は大打撃を受けていた頃で、かつ世間ではリモートワークが継続していた。オフィス街での出店に不安はなかったのだろうか。

「StyLeはコロナ禍に20店を閉め、20店を新たに出店しています。これまでアルコール業態メインで出店してきましたが、仮にコロナの影響でアルコール業態の集客が戻ってこなくても、会社として成立するように、出店のほとんどは食事業態を選んでいました」

しかし、この『青山一丁目たぬき』には「“それでも出店したい”という思いがあった」とオープンに踏み込む。常に周辺のデータを集め、集客の算段がついていたことも後押しした。

夜には光るネオンが通行人の目を引く(写真提供:『青山一丁目たぬき』)

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「楽しみ方をわかりやすく」路面店の認知力でリピーターを増やす

『青山一丁目たぬき』は週7日休みなく営業する。オープン当初はオフィスが休みの土日の売上は低かったが、今では近隣住民を中心に、平日と変わらない賑わいをみせている。

これだけの繁盛店でありながら、これまでSNSなどWebでの集客は特にしていないというから驚きだ。「歩いている人が認知し、一度来店し、いい店と感じてもらえたらまたすぐに来てくれる。路面店の魅力は家賃が高い分、そこにある」と石川氏。

代わりに店頭に目立つネオンの看板を立て、店の雰囲気がわかるように入口はガラス戸にした。内装デザインにも徹底的にこだわっている。

「新しい店ができたと気にしてもらっても、どういう楽しみ方ができるのかがわからないと『いつか行ってみよう』で終わってしまう。店での楽しみ方がイメージできれば、入りやすくなるはずと考えたんです」

道ゆく人に店内が見えるようにガラス戸を取り入れ、カウンターも入口付近に配置。もつ煮の鍋を目立つように設置することで、大衆酒場の雰囲気をわかりやすく表現している。

「YoutubeやTikTokなどの動画サイトでショートムービーが流行っているように、最近は短い時間で面白さを表現することが主流になっています。飲食店でも一瞬で店を理解してもらい、興味を持ってもらわなければいけません」

「普通のものがちゃんとおいしい」安心感あるメニューがファンを増やす

「大衆酒場のメリットは客層を選ばず、老若男女を集客できること。その分メニューにキラーコンテンツを設けにくいのがデメリットでしょうか。目立ったものを作ろうとすると、居酒屋として本質的でなくなる」

出店する前にはメニューの開発担当者と何軒も大衆酒場を回った。そこで決めたのは「注文したら何が出てくるかわかるメニューにし、安心感を与える。そして、食べるとちゃんとおいしい」こと。これは先に紹介した、内外装における「楽しみ方のわかりやすさ」と共通する。

おいしいものがあふれる東京で、普段は凝った料理を食べているはずの人たちに、奇をてらうのではなく、一つひとつ丁寧に作ることで満足してもらい、リピーターに繋げているのだ。客単価は4,000円程度。「大衆酒場にしては少し高いがその価値はある」と石川氏。

SNS映えするメニューを出す店が増える中、「普通のものがちゃんとおいしい」で戦えるのは、意外と難しいはずだ。「うちのメニュー開発者は天才」と言い切る石川氏の言葉の節々には、味への自信とスタッフへの信頼が滲み出る。

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神田えり子

ライター: 神田えり子

ライター・料理家。広告営業、料理教室講師を経てフリーのライター・料理家に。旬の野菜を使ったおばんざいが得意。食まわりの執筆のほか、レシピ開発、フードコーディネーター、イベントやメディア出演などの活動をしている。趣味は散歩、ときどき観劇。