下北沢『Et』と考える、第4次コーヒー時代の「カフェとバリスタの未来」
『Et』に集った「リスペクト」と「チャレンジ」精神を備えたバリスタたち
そんな『Et』の担い手として欠かせない存在が、コーヒーを淹れるバリスタだ。今や、スペシャルティコーヒー(厳正な評価基準をクリアした高品質なコーヒー)が広く浸透し、街中では世界的な競技会で受賞歴を持つバリスタも多く見られるようになった。実際に『Et』に集ったのも『ブルーボトルコーヒー』『Single O』『VERVE COFFEE ROASTERS』など、サードウェーブコーヒーを牽引した名店出身のバリスタたち。では、『Et』は新時代のカフェづくりを共にするバリスタを、どのような視点でアサインしたのか? 何より求めたのは「『Et』のビジョンに共感し、同じベクトルを向いて進むことができるか」だという。
磯辺さんは、バリスタをはじめ、キュレーションしたすべての同志に備わるマインドを「リスペクト」と「チャレンジ」の精神だと表現する。さらに、この両軸があれば「チームは生き物のように育っていく」とも言い切った。
その真意は、集う者それぞれが描く未来を共有し、互いにリスペクトし合えなければ、共に一つのものに情熱を注ぎ、新たなものを生み出すことなど叶わないというブランドビジョンへの一貫した想いだ。故に『Et』では、プロジェクトに参画するあらゆる人と事前に時間をかけて話し合い、議論を交わすことに力を注いできた。
第4次コーヒー時代のバリスタには、技術+人との関わりを楽しむ力が必要
『Et』にジョインするバリスタの一人、石橋さんは丁寧に言葉を選びながら、まったく新しいこのブランドに参画した理由を語ってくれた。
「豆の品質の向上に伴って、一定レベルのおいしいコーヒーはどこでも飲めるようになりました。優れたマシンも続々と登場し、“淹れる技術”は今後、徐々に必要されなくなるでしょう。今、バリスタに改めて問われているのは、対お客さま・対チームの中で『人と人との関わりを楽しむ力』だと僕は感じています。
『お客さまとスタッフ』『同じ職場の人』という表面的な関わりから一歩踏み込んで、目の前の個人に寄り添いリスペクトを持って接することができるかが求められている。そのためには、バリスタとして自分が本気で挑戦したいと思える環境……つまり、自分が心から共感できるビジョンを持ち、自分を受け入れてくれる“居場所”としてのチームに身を置きたいと思ったんです」
根底には、「バリスタは特殊な職業である」という考えがあるという。専門的な技術を要する「職人」でありながら、店に立ちゲストと接する「接客業」でもあるからだ。どんな有名なチャンピオンであろうと、店に立ち、ゲストにコーヒーを提供して初めてその1杯は価値を持つ。そしてそこには必ず、人間同士のコンタクトが伴うと石橋さんは話す。
一見、華やかに見えるバリスタの仕事だが、職人業と接客業という相反する二面を極めることは、決して容易ではない。一方で、いわゆる“いいバリスタ”たちが優れたホスピタリティを持ち合わせていることは、紛れもない事実だ。
「ホスピタリティの始まりってきっと、相手を受け入れて尊重することだと思うんです。それは“居場所”にも不可欠な要素。僕自身も、チャレンジし続ける技術者であると同時に、人との出会いを楽しめる人でありたいですね」(石橋さん)
