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月商1,500万円の中野『酒パチパチ』。伝説のホストが“行動力”を武器に居酒屋経営でも成功へ

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『酒パチパチ』の2階フロア。柱などに使用する古材は、解体業者の作業現場を探し出して無償で譲り受け、軽トラで運び出すのも常田氏の仕事だ

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行動派経営者のもう一つの顔は施工業者?

常田氏は行動の人である。それを象徴するのが「店造り」。新店舗を立ち上げる際、基本的に自ら居抜き物件の内装を解体し、コンクリートをはつり、スケルトンの状態に。2025年6月に開店した中野の『屋台だるま寿』を造る際には、躯体が劣化していたため、鉄骨による補強工事まで、つなぎを着た社長が行っているのだ。

解体後は図面を自分で引いて、内装工事に取り掛かる。壁にタイルを貼り、セメントを塗る左官の仕事もこなす。テーブルや棚などもインパクトドライバーといった工具を握り、造り上げる。しかも、『十七番地 下北沢店』以外の系列店舗全ての造作を常田氏が手掛けたとか……。

「最初はお金もなかったから、自分がやるイコール原価だし、初期投資が抑えられるという考えでした。ただ今は、純粋に自分の店を造るのが好き。まあ、ここまでやるのは変態ですね(苦笑)」

取材に同席していた十七番地グループの女将であり、常田氏の奥さまの千夏さんは、うなずきながらこう補足する。

「社長は工事をしているときが一番幸せそう。好きこそものの上手なれですよ。独学で勉強して、探求心がすごい。『十七番地 下北沢店』の改装の造作を依頼したスタジオムーンの乙部隆行さん(設計デザイナー)も社長に、『厨房とホールの微妙な距離感などは、自分で店の現場に立っているトッキー(常田氏の愛称)にしか分からないよね』とおっしゃっていました」

キッチンに関しても、冷蔵庫や食洗器、食器棚の配置に至るまで、従業員の動線や業務中の動きを考えたレイアウトを組めるのは、現場を熟知する常田氏の強みである。

『酒パチパチ』2階の窓際席。改装前は普通の窓だったが、「客数×単価=売上」の考えから出窓へ造り直し、そこに席を設けた

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湯気、煙、香りが立つ雰囲気づくりが繁盛の鍵

2階建ての『酒パチパチ』の施工期間は3か月。古民家風の哀愁漂う内装は、とても素人が造ったものとは思えない。なかでもこだわったのが、1階のカウンター前に設置したもつ煮用の鍋だ。ステンレスの大きな鍋は特注品で、それが木製の台にすっぽり組み込まれている。鍋の周囲にしつらえた緑のモザイクタイルも、レトロモダンな雰囲気を醸し出す。

常田氏が悩んだ末に造り上げたもつ煮の鍋。店の映えスポットとして大人気

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「この鍋の前で立ち飲みしたくなりません? 自分なら写真も撮って自慢したいんですよ。そういうことを想像しながら造りましたね。(店頭の)白いのれんは古い生地を使って、うちの千夏が夜な夜な縫ったもの。結構かわいいって言われます」と、饒舌に語る常田氏。続けて、繁盛店を生む核心についても触れた。

名物「もつ煮」(680円)は継ぎ足しの味噌スープに大きな豆腐や玉子がどっさり。後ろは常田氏のホスト時代の源氏名を冠したオリジナル日本酒「香咲」(グラス770円~)

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「一番重要なのは、その店に入るときの雰囲気ですね。『この店、良さそうだな』という雰囲気を、料理から立ち上る湯気、煙、香りで演出するのが大切です。だから『酒パチパチ』の場合は、鍋を立席から見える位置に置きました。のれんの隙間からチラッとそれらが見えて、先客が立っている後ろ姿も味となり、また人を呼ぶ。これだとテーブル席が満席でもカウンター席で我慢してくれるし、店内の席が空いたらすぐ案内できるから、お客さまの回転率が上がります」

この店先でのチラリズムに誘われて訪れたインフルエンサーのおかげで、『酒パチパチ』はバズることに成功したという。

イクラとワサビ風味のとびっこが輝く「エビマヨ」(1,280円)も『酒パチパチ』の名物。大ぶりなブラックタイガーは食べ応えあり

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小林智明

ライター: 小林智明

埼玉県出身。情報誌の編集プロダクションを経て、2006年にライターとして独立。食、旅、スポーツ、エンタメなど多岐にわたり取材・執筆活動を展開中。グルメ取材はラーメン店を中心に計500軒を突破。好きなお酒は辛口純米酒。