坪月商40万円を売る学芸大学『つきかげ』。焼酎×鶏料理への偏愛を「高収益」に変える技術
「売上よりも、焼酎の素晴らしさを伝えたい」。目指すのは南九州の風景が見える店
『つきかげ』の店づくりにおいて、高野氏が何より重視するのは「言葉でしっかり作り手の思いを伝えること」だ。
「これを言うとオーナーに怒られそうですが(笑)、正直、売上や利益よりも『こんなに素晴らしい焼酎があるんだ』ということを伝えたいという思いが強いんです。東京にいながら、まるで南九州に旅行に来たような気分を味わえる店にしたい。そのために、現地の水や食材を取り寄せ、風景が見えるような提案をしています」
店内はカウンター席がメイン。客席との距離が近く、炭火で鶏が焼ける音や香りがダイレクトに伝わるライブ感が魅力だ。ここで提供されるのは、高野氏が現地に足を運んで選んだ鹿児島県産の「きさ輝(き)地鶏」。鮮度抜群の鶏肉を炭火で豪快に炙り、香ばしさとレアな食感のコントラストを楽しませる。
また、高野氏の海外経験もメニューの随所に光る。LA時代に同僚のメキシコ人が作っていたタコスにインスパイアされた「フリソデ西京焼きタコス」(1ピース748円)など、焼酎のアテとしての枠を超えた提案も行う。締めには奄美大島の郷土料理をアレンジした「奄美名物いりこ出汁油ぞうめん」(968円)を用意するなど、九州・南西諸島の食文化へのリスペクトと、料理人としての遊び心が同居している。
仕込み水で前割り&燗つけ、温泉水で水割りやお湯割りなど、マニアックな焼酎体験
『つきかげ』の真骨頂は、そのマニアックな焼酎体験にある。高野氏は、「千本桜」で知られる宮崎県都城市の「柳田酒造」の仕込み水を取り寄せ、焼酎の前割り(事前に水で割って馴染ませる手法)を行う。アルコール度数は12.5%程度に調整し、燗にする際は香りが最も開く48度前後を狙うなど、徹底的に“味の最適解”を追求している。
また、水割りやお湯割りは仕込み水ではなく、鹿児島県垂水市の温泉水「寿鶴」を使うというこだわりだ。
この高野市の熱狂こそが、画一的なチェーン店に飽きた客層や、南九州出身者を惹きつけた。また、若者が増えた学芸大学エリアにおいて、「ここは落ち着ける」と中高年層の受け皿となりリピーターを多く獲得。その成果は数字にも表れている。
オープン初月と2か月目は月商約300万円を記録。坪月商に換算すると約40万円という繁盛店水準を達成した。客単価はフリーの来店で6,500〜7,000円ほどだが、焼酎と料理のペアリングをじっくり楽しむ層では1万円に達することもあるという。落ち着いた現在でも月商230万円前後(坪月商約30万円)をキープしており、7.5坪の小箱、2名体制での営業で高収益体質を実現している。





