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坪月商100万円の立ち飲み店、学芸大学『サンヤ』。感性とロジックが融合した新世代の店づくり

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少しでも幅を広げようと右側の壁は断熱材を外し5cm削ったそう。左側はスペインタイルの壁。一枚板のカウンターは樹齢300年の倒木ならではの歪んだ年輪が味わい深い

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天井を抜いて造ったロフト付き屋根裏の“抜け感”

コンセプトを具現化させるために必要なのが、椅子がなくても居心地の良さを感じさせる空間づくりだ。しかしながら、契約した古民家物件は間口が180cmしかない細長いうなぎの寝床……。『目黒 三谷』の改装よりも難易度は上がったが、解体から始まり、キッチン、カウンター、壁の施工といった内装全般のDIYを、図面を引く曽我氏を筆頭に従業員が総出で行った。

「全国の立ち飲み店を巡って、各店のカウンタートップから壁までをレーザーメジャー(距離計)を使ってこっそり測り、お客さまがストレスのかからない距離感を探りました。一方で従業員の動線、厨房スペースを確保しなければなりません。ギリギリの妥協点を探りながら5mm単位とかで測り、設計するのに苦心しました」

とはいえ、内装デザインの最終的な優先順位は、スタッフのオペレーションよりもお客を自然と長居させる上質な空間の提供においた。特に曽我氏がこだわったのは“抜け感”だ。

「狭いので、やはり圧迫感が出てしまいます。そこで目線の逃げ道を意図的につくっています。目線が抜けた先の空間の広がりを持たせることで、お客さま同士の会話が途切れた時間のストレスを減らし、『その先に何があるんだろう』という不思議なワクワク感を狙って造作しました。事実、2時間過ごす常連さんはざらにいますね」

屋根裏に設置されたお酒のショーケース兼セラー。この空間演出は「学生時代にデザインをかじっていた」曽我氏のアイデアによるもの

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DIYで施工費を圧縮し、ハイセンス什器に投資する

『サンヤ』では天井の一部を取っ払い、むき出しになった屋根裏部分をロフトスペースのような造りに。そこには日本酒やワインのショーケースがディスプレイされ、ライトアップにより輝く。屋根裏の高い天井を見上げれば、MoMA(ニューヨーク近代美術館)永久保存コレクションである名品、ハーマンミラー社のバブルランプ3基の優しい光に癒される。

ハーマンミラーのバブルランプは40万円と高価。曽我氏の審美眼に気づいたお客から内装コンサル業の仕事の依頼を受けることも

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古民家の和空間とのギャップを楽しめる、普遍的で美しいデザインの高級什器を取り入れるスタイルは、『目黒 三谷』にも通じる。だから雰囲気も含めての「カウンターの続き」なのだ。『サンヤ』ではさらに、曽我氏がショールームでひと目惚れし即買いしたという幾何学模様が描かれたスペイン製タイルを店内にあしらう。陶器の食器皿もすべて、オーダーメイドの作家物を取りそろえる。自分たちが「かっこいい」と思えるものには、しっかりお金をかけるのが株式会社souzouの流儀である。

「それらに全力で投資するために、DIYで内装費を抑えるなど、余計な経費をできるだけ圧縮しています。備品では、ある程度長持ちする冷蔵庫や1回使ったら傷だらけになるシンクは、あえて中古を導入します。中古サイトで15分あされば半値で買えるんですよ」と、曽我氏は言う。

神奈川県・秦野の窯元「TORCH」にフルオーダーしたオリジナル陶器を使用

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生産者の想い、ストーリーを代弁するのも仕事の一つ

続いて、「客単価4,000円・2時間滞在」を目指すメニューについて。現状の客単価は3,890円とやや下振れしているものの、開店当時から方向性はブレずに邁進している。

メインを張るのは既存店同様、芝浦の食肉市場から仕入れる新鮮なホルモン主体の料理。他の食材は、魚や野菜から調味料に至るまで生産者から直接仕入れる素材が多い。極めつけは「塩」だ。大阪・関西万博で表彰されたほどの塩職人「田野屋塩二郎」の完全天日塩を、ホルモンの煮込みの味付けに用いている。

「芝浦ホルモン3種煮込み~塩~」(960円)に使う「田野屋塩二郎」の完全天日塩はミシュランシェフも愛用(写真提供:株式会社souzou)

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「ご縁があって『田野屋塩二郎』の塩を採用しました。塩職人さんから話を聞くと、海水の水位が上がって満潮になる満月の日しか海水を汲み取らないそうなんですよ。『いろいろ試したけど、この海水で作る塩が一番うまいんだ』と。そういった生産者さんの話や想いというのは、僕らだから知り得ることです。なので、営業中にはスタッフが第一産業の方たちの想いを、お客さまに伝えるようにしています。商品自体にもその想いを乗せておいしいものを作ることで、商品の価値が上がります」

鮮度の違いがよく分かるレバーの「三谷ればぁにら」(960円)の注文率は80%!(写真提供:株式会社souzou)

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単純に単価を上げて、利益を出したいわけではない。そのようなストーリーや想いが詰まった素材を扱い、仕入れ値が高くなる分、単価は自然と上がってしまうのだ。内装などの什器同様、料理も「本当によいもの」を追求するための投資を惜しまない。

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小林智明

ライター: 小林智明

埼玉県出身。情報誌の編集プロダクションを経て、2006年にライターとして独立。食、旅、スポーツ、エンタメなど多岐にわたり取材・執筆活動を展開中。グルメ取材はラーメン店を中心に計500軒を突破。好きなお酒は辛口純米酒。